柔整師の「応急手当」とは?

男の人の画像

青いSNSと赤いSNSでレントゲン画像が載った投稿に目が止まりました。

その投稿はどうやら、接骨院のスタッフの方の投稿のようでした。

それらには興味深い内容が記載されていました。

青と赤で内容が違うようにも読み取れる事に戸惑いながらも、色々と内容をまとめると以下のような話だと私は理解しました。

ほねゆきが見た投稿のまとめ

「橈骨遠位端骨折を受傷後に整形外科で整復されてギプス固定され、接骨院に来院。来院時に前医での整復固定後レントゲン画像を持参していたため、見てみると転位が残存していた。患者さんの同意を得て、ギプスを除去し再整復。シーネ固定に変更し、別の整形外科に対診。最初のレントゲンよりも側面像で背側転位が増えているが許容範囲内と骨折治療の同意を得た。」

さて、皆さんは違和感を感じますか?

ほねゆきは色々なところに不安を抱きましたが、特に「前医のギプス固定を除去して整復固定し直した」というところに疑問を持ちました。

あれ、医師の同意ってどうなってるんだろう。

そう思った方も少なくないはず。

もちろんSNSですから、事実とは違うことを書いている可能性も高いですし、もしかしたら前医ですでに骨折治療の同意を得ていたのかもしれません。(一連の投稿からはそうは思えませんが💦)

そこで!

今回は改めて、柔整師の「応急手当」ってなんだろうとかっていうことをブログにしたいと思います。

授業で生徒には教えますが、まさか現場に出て間違って解釈している人はいないですよね…

※ギプスと腫脹の話や、整復の出来についての話題は触れません。

柔道整復師法第四章第十七条とは

柔整師の皆さんは何度も目にするこの十七条。

改めて確認しましょう。

第十七条 柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱きゆう又は骨折の患部に施術をしてはならない。ただし、応急手当をする場合は、この限りでない。

柔道整復師法(昭和45年4月14日交付)

さて、この文言はもう目を瞑ってでも言えますね。

骨折と脱臼は医師の同意がなければ柔道整復師は施術できないということです。

ここで重要なのは、「応急手当をする場合は、この限りでない。」という一文。

言い換えれば、応急手当であれば医師の同意がなく骨折脱臼の施術をしてもいいと解釈することができるかもしれません。

この「応急手当」ってなんだろうって思いますよね。

「応急手当」とは

実は柔整法にはこの「応急手当」がなんであるかの記載はありません。

なので、人によって解釈が違うことは確かです。

「整復せずにそっと固定するのが応急手当だ」
「整復はしていいけどギプスじゃなくてシーネ固定するのが応急手当だ」
「そっと患部に手を当てて安心させるのが応急手当だ」

と、色々と言っている人がいます。

さて、困りましたね。

公式な見解が見たいでしょ?実は一応あるんです。

もちろん、それがないと柔整師は柔整法に乗っ取って柔道整復術を運用できませんから。

昭和23年6月17日に「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法の疑義に関する件」として、福井県知事経由で厚生省医務局長に照会があった際に、厚生省医務局長がこう返答しています。

「応急の手当」とは、骨折又は脱臼の場合に、医師の診療を受けるまで放置するときは生命又は身体に重大な危害を来す虞のある場合に柔道整復師がその業務の範囲内において患部を一応整復する行為をいうのである。(中略)而して応急の場合なりや否やの判定については、濫に流れることなく十分厳格に解釈すべきである。

医第一二三号「あん摩、はり、きゅう、柔道整復等営業法の疑義に関する件」

なるほど〜!さぁ、理解できていますか?

罰則は何か

柔整法の違反について、その罰則についても柔整法に書いてあります。

第七章

第三十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

 第八条第一項の規定により業務の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、業務を行つたもの

 第十七条の規定に違反した者

 第十八条第一項の規定に基づく指示に違反した者

 第二十二条の規定に基づく処分又は命令に違反した者

 第二十四条の規定に違反した者

 第十九条第一項又は第二項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者

 第二十一条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による職員の検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者

柔道整復師法(昭和45年4月14日交付)

十七条に違反すると30万以下の罰金です。

今回のケースは違反?

さて、今回のケースを考えるにあたって大事なポイントはなんでしょうか。

ほねゆきは法律の専門家ではないですが、「接骨院で行われたことが応急の手当に当たるかどうか」というのがポイントだと思います。

結論から言うと、非常にグレーかと思われます。

応急手当とは「医師の診療を受けるまで放置するときは生命又は身体に重大な危害を来す虞のある場合に柔道整復師がその業務の範囲内において患部を一応整復する行為」だとご紹介しました。

これを分解して、今回のケースに当てはめて考えたいと思います。

①医師の診療を受けるまでに
この医師とは、もちろん医師(一応保健医)であれば誰でもいいわけです。今回のケースにおいて、この医師を“前医(最初の整形外科医)”だとすると、これは柔整師が患者さんを見たのが診療の後になりますから、あてはまりません。しかし、“接骨院での整復固定後に対診した医師”だとすると、これは当てはまるかもしれません。強引ですが。

②生命または身体に重大な危害をきす恐れのある場合
これは非常に曖昧な表現ですが、今回は「受傷直後の全周キャスト固定で患部圧迫感と痺れがあった」との記載もありましたから、まぁ重大かどうかはわかりませんが当てはまることと出来るかもしれません。これは重大な危害を期すかどうかの判断は柔整師に任されていると考えると、なんでも理由はつけられるのかもしれません。

③患部を一応整復する行為
これは骨を戻すという整復の行為をいうということですね。今回は実際に骨折整復したということで、一応?整復する行為でしょう。

という感じで、文面だけ見ると強引に応急手当ての範囲内と考えることもできそうです。

しかし、特に「医師の診療を受けるまでに」というのは、一般的には全般的な医師そのものの存在を指します。

したがって、そう考えれば、前医が明らかに治療を放棄しているとか、全く処置をしていないとか、そもそも骨折の診断が適切に付いていないなどといった場合以外は、これは応急手当の範囲外と捉えられても仕方がないかもしれません。

今回は整形外科で整復をされ、かつギプス固定までされていますから、いくら前医のギプスが下手だったとしても、応急手当というには無理があるかもしれません。

ふさわしい対応とは?

「而して応急の場合なりや否やの判定については、濫に流れることなく十分厳格に解釈すべきである。」という文言を考えれば、柔整師として、前医に伺いを立てる、もしくは整復固定前に次の医師に対診することが望ましかったのではないかと考えます。

また、前医の処置を何か変更する場合には、医療業界の最低限のモラルとして、①前医が次で変更することを前提に処置した、もしくはその後の治療を放棄した、または前医から変更していい旨の了承を得たことと、②成す処置が前医のものより圧倒的に患者さんにとってメリットのある行為であることが必要なんではないかと、法律関係なく思います。

ギプストラブルが出ているのであれば、私であれば一般的な対応としてギプスのトラブルを解消した後に、侵襲行為である骨折整復はせずに対診し、整復の必要性を医師に説明して同意をもらってから自分の責任で整復をします。

そうすれば全てクリーンです。

今回のケースはハタから見ると、なぜか「受傷直後にギプス巻いちゃいかん!」となって冷静さを欠いた状態で整復までしてしまったのだと言わざるを得ません。

療養費算定に際して

さて、今回の話題に際して「全く問題ない」という人の中に、「前医で整復されていても整復の必要性を判断できれば整復していいんだよ」という意見がありました。

整復していいか悪いかは、前述した通りグレーです。

ここでほねゆきが気になったのは、柔整法と療養費算定基準を何か脳内で混在させて理解しているのではないかという点です。

もちろん、療養費の算定の手引きは柔整法がきちんと運用されているものとして書かれていますので、矛盾はあまりないのですが、療養費算定できることと、柔整法に違反していないことは違うことであると認識してください。

第1 通則
1 療養費の支給対象となる柔道整復師の施術は、柔道整復師法に違反するものではあってならないこと。

平成9年4月17日 保険発第五七号 各都道府県民生主管部(局)保険・国民健康保険主管課(部)長あて厚生省保険局医療課長通知

もちろん、柔整法が守られた上で療養費が成り立つよということです。

当然、柔整法を違反した状態で療養費は受けられません。患者さんにとっても柔整師にとっても最悪な状態です。

療養費算定に際して、前医で整復固定を受けていても整復の必要性が判断できれば、これは整復料(固定料)などを接骨院で算定することができます。

もちろん、最後は保険者の判断なのですが、柔整師が保険者に対して「前医で整復を受けていても整復料を算定できる」と言うための材料はあります。

第1 通則
4 現に医師が診療中の骨折又は脱臼については、当該医師の同意が得られている場合のほかは、施術を行ってはならないこと。ただし、応急手当をする場合はこの限りでないこと。この場合、同意を求めることとしている医師は、原則として当該負傷について診療を担当している医師とするが、当該医師の同意を求めることができないやむを得ない事由がある場合には、この限りではないこと。なお、この場合における当該骨折又は脱臼に対する施術料は、医師が整復又は固定を行っている場合は整復料又は固定料は算定せず、初検料、後療料等により算定すること。

平成9年4月17日 保険発第五七号 各都道府県民生主管部(局)保険・国民健康保険主管課(部)長あて厚生省保険局医療課長通知

えーっと….なに?!

すでに医師が整復固定を行っている場合には整復料は算定できないと書いてあります!!

これは困りました。

しかし、実際に柔整法の範囲内で必要性を判断して整復をしたのであれば、これはたとえ前医で整復をすでにされていたとしても、これに対する対価はもらえなくてはおかしな話です。

第1 通則
8 既に保険医療機関での受診又は他の施術所での施術を受けた患者及び受傷後日数を経過して受療する患者に対する施術については、現に整復、固定又は施療を必要とする場合に限り初検料、整復料、固定料又は施療料を算定できること。なお、整復、固定又は施療の必要がない場合は、初検料、後療料等により算定すること。

平成9年4月17日 保険発第五七号 各都道府県民生主管部(局)保険・国民健康保険主管課(部)長あて厚生省保険局医療課長通知

というわけで、別項に、既に前医で整復固定を受けていても算定できるとしっかり明記してあります。

ただ、これは医師の同意があった上、もしくは応急手当として行った整復固定の話です。

さいごに

いかがでしたでしょうか。

柔整師の皆さんにおいては、自分が行う行為が法の範囲内であるかどうかは常に考えなければいけません。

また、社会的通念、一般的理念、医療業界での共通認識を常に意識しておかなければ、柔道整復師という免許の特性を考えても、個人のみだけではなく業界に大きくダメージを与えるかもしれれません。

何も考えずに「受傷直後にギプス巻くなんて危ない!すぐ外さなきゃ!」とか「エコーで見てみたら骨片ズレてる!いつもの整復しなきゃ!」とか言って適当に業務をしていると、醤油をぺろぺろしてるのと同じような結末が待ってるかもしれませんよ。