皆さんごきげんよう、外傷柔整師ほねゆきです。(breakingdownから流れて、朝倉未来さんのYouTube見てました。)
Twitterは面白い場です。不特定多数に発信しているだけあって、さまざまな職種や考えを持った方から意見を頂けます。
自分とは違う畑の先生方がどのように治療しているか知ることとで、自分の治療がどうなのかあらためて見つめ直す機会となり、非常に勉強になります。
いい意味でも悪い意味でも、井の中の蛙状態ですね。
今回はTwitterにて提示していただいていたひとつの文献について分かりやすく和訳してご紹介し、ほねゆきの感想を独断と偏見で書き記したいと思います。
英字論文は読み慣れてないと、難しいですからね。
では、いってみよう!
文献紹介
さて、どんなタイトルの文献なんでしょうか。
和訳すると、『これだけは見ておきたい!足関節捻挫の管理:何が最善の方法か?過去10年間のエビデンスを系統的に評論した』といったところでしょうね。
2010年にオンライン上で公開されています。
Imperial College Healthcare NHS Trust というロンドンの病院のような施設に所属するお二方が発表しています。
過去10年のシステマチックレビューなので、この発表者が研究をしたり統計を取ったりしたわけではなく、色々な文献を基準に照らし合わせて選りすぐり、情報をまとめたものということですね。
何を調べたのか
この発表の Methods(このレビューの作成手法)にはこう書いてありました。
抜粋し、ほねゆきが和訳します。途中でほねゆきの感想も添えてます。
Time limits were applied and only contemporary articles published within the last 10 years (from 1 January 2000) .
過去10年以内(2000年1月1日以降)に出版された英語論文のみを考慮した。
We used the following inclusion criteria: ankle sprainsacute and/or chronic (greater than 6 weeks)
足関節捻挫は、急性および/または慢性(6週間以上)の足関節捻挫を対象とした。
Patient selection was also limited to adults equal to or greater than 18 years of age.
また、患者の選択は、18歳以上の成人に限定した。
We only considered articles with higher levels of evidence (1–5) where level 1 1⁄4 systematic review or meta-analysis, level 2 1⁄4 randomized controlled trial (RCT), level 3 1⁄4 cohort studies, level 4 1⁄4 case control studies and level 5 1⁄4 cross-sectional studies.
レベル1/4の系統的レビューまたはメタ解析、レベル2/4のランダム化比較試験(RCT)、レベル3/4のコホート研究(仮説群とそれに反する群の比較研究)、レベル4/4のケースコントロール研究(罹患者と非罹患者の違いを調べる研究)、レベル5/4の横断的研究で、エビデンスレベルが高いもの(1~5)のみを対象とした。
We excluded articles which considered management of ankle fractures or dislocations.
足関節の骨折や脱臼の管理について検討した論文は除外した。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
2010年時点から過去10年の英語論文で、18歳以上の慢性を含む足関節捻挫を対象。ある程度エビデンスレベルのあるものを選びましたよー。ということですね。
集めた論文にどんな事が書いてあったのか
さて、どのように論文の結果がまとめられているのでしょう。抜粋してサクサク見ていきましょう。
‘ankle injury primary care’ (102 articles were found)
今回の話題に関連する論文が102件見つかりました。
The final 20 articles are presented in Tables 1 and 2.
最終的に20の論文を選びました。(2つの表にしたよ。)
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
ついで、保存療法についてこう書いてあります。
systematic review by Kerkhoffs assessed the effectiveness of methods of immobilization for acute lateral ankle ligament injuries and compared immobilization with functional treatment methods.
Kerkhoffsらは、急性の足関節外側靭帯損傷に対する固定方法の有効性を評価し、外固定で不動化した場合と、簡易な固定しかしなかった場合とを比較した。
Functional interventions (which included elastic banding, soft cast, taping or orthoses with associated coordination training) were found to be statistically better than immobilization for multiple outcome measures.
簡易装具治療(弾性包帯固定、シーネ固定、テーピング、装具など)は、複数の結果において、外固定で不動化した場合よりも優れていることがわかった。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
ここでKerkhoffsさんらの研究論文を見てみると、「様々な種類の固定をした場合と、固定と理学療法をした場合、無治療だった場合の結果としては、有意差は見られなかった。」とも書いてあります。
「優れている」と言っても、その差はわずかだったようです。
元の論文に戻りましょう。
in a separate article, Kerkhoffs systematically assessed the effectiveness of various treatments of acute ruptures of the lateral ankle ligaments in adults.
Kerkhoffsらは別の論文で、成人の足関節外側靭帯の急性断裂に対するさまざまな治療の効果を系統的に評価しました。
They found that lace-up supports were a more effective functional treatment than elastic bandaging.
レースアップサポーター(靴紐で締めるような古典的なサポーター)は弾性包帯を巻くよりも効果的な機能的治療法であることを発見しました。
Lace-up supports resulted in less persistent swelling in the short term when compared with semi-rigid ankle supports, elastic bandaging and tape.
レースアップサポーターは、(一般的なマジックテープの)足関節サポーター、弾性包帯、テーピングと比較して、腫脹が比較的早く減少した。
Tape resulted in more dermatological complications than elastic bandage.
テーピングは弾性包帯よりも皮膚障害が多かった。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
この論文も読んでみましたが、組織の修復については全く触れられておらず、患者の満足度や、社会復帰できた期間などを指標にしています。
何を治しているのでしょうか。もちろん、長期的な予後予測については全く記載がありません。
「締め付けた方が腫れが引くの早いよ」という論文にしかみえません。
次に行きましょう。
Lamb conducted a single-blinded randomized control trial, assessing the effectiveness of three different mechanical supports (the Aircast brace, the Bledsoe boot or 10-day below-knee cast) against that of a double-layered tubular compression bandage in promoting recovery after severe ankle sprains.
Lambらは、重症足関節捻挫後の3つの固定(エアーキャストブレース※、樹脂製の膝下装具、10日間の膝下ギプス)の有効性を、厚手の圧縮包帯と比較評価した。
※ギプスシーネ状のステイがついたある程度強度のあるサポーター装具
They found that a short period of immo- bilization in a below-knee cast or Aircast brace resulted in faster recovery than if the patient is only given tubular compression bandage.
膝下ギプスやエアキャストブレースによる短期間の固定が、チューブ状圧縮包帯のみを使用した場合よりも回復(3ヶ月後の足関節の機能、疼痛、活動性の観点)を早めることを発見しました。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
お、ギプスが出てきました!
しかし、これも元の論文を読みましたが、家で装具を外していたのかなどの記載はないですし、運動指導についても全く記載がありません。
日本で柔整師が行っているようないわゆる”後療法”はもちろん行われていないですし、短絡的に「固定を試してみたよ」といった報告でしかないですね。
ギプス固定がなぜ10日間なのかの的確な理由もないですし、組織の治癒過程については一切触れていません。
ギプス固定といっても、どのような肢位でどうやって巻いたかが分かりませんし、荷重していたかどうかも不明です。
ほねゆきの私見ですが、日本の柔整師の治療と比べれば、相当いい加減な治療と言わざるを得ないでしょう。
さて、このレビューにて固定について書かれていた部分は以上のようです。
結論としてかかれていたものは
For mild-to-moderate sprains, functional treatment options (which can consist of elastic banding, soft cast, taping or orthoses with associated coordination training) were found to be statistically better than immobilization for multiple outcome measures.
軽度から中等度の捻挫では、関節運動を伴う固定(弾性包帯固定、ソフトキャスト、テーピング、その他装具)は複数の結果で、関節不動の強固な固定よりも統計的に優れていることが判明しました。
Lace-up supports are a more effective functional treatment than elastic bandaging and result in less persistent swelling in the short term when compared with semi-rigid ankle sup- ports, elastic bandaging and tape. Tape resulted in more dermatologi- cal complications than elastic bandage.
レースアップサポーターは、弾性包帯よりも効果的であり、(一般的なマジックテープの)足関節サポーター、テーピングと比較して、短期的には腫脹が減少しやすかった。テープは弾性包帯よりも皮膚科的合併症が多かった。
For severe ankle sprains, a short period of immobilization in a below- knee cast or pneumatic brace results in a quicker recovery than tubular compression bandage alone.
重度の足関節捻挫の場合、膝下ギプスや空気圧調整装具で短期間固定すると、チューブ包帯での圧迫だけよりも回復が早くなります。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』より抜粋
と書いてありました。
そうなんだぁ。
ちなみに、ほねゆきはTwitterでは「断裂」と言っており、いわゆる重度の捻挫を想定して発言しました。
しかし、元の論文を読んでも軽度〜中等度という定義もいまいち曖昧で、なんだかなぁな感じでした。
ちなみに、読んでわかったと思いますが、「中等症までは固定は推奨されてないような結果を示すレビューもありますね。」というのは嘘ですね。(R4年7月18日削除)
「中等症までは固定は推奨されてないような結果を示すレビューもありますね。」というのは、「中等症までは(ギプス)固定は推奨されてないような結果を示すレビューもありますね。」という意味だったようです。上記訂正してお詫び申し上げます。(R4年7月18日追記)
ほねゆきの所感
改めて日本の柔整師の治療は非常に細かいところまで繊細に考えられているのだなと、先人の先生たちに感謝しました。
それらを損傷組織の動きと合わせて理論的に語っていく事で、我々の治療方法が広く認められていくのではないでしょうか。
もちろん、患者さんのニーズに合わせて治療は行わなければいけませんが、患者さんが望んでいる未来と、医学的に予測される未来が違うことは往々にして存在します。
「すぐにスポーツ/仕事復帰したい」という患者さんの願いを叶えてあげることは素晴らしいですが、その際に「このようなリスクがありますよ」ときちんと伝えなければいけません。
ほねゆきはこれまでに、過去の捻挫によって思いもよらないところで苦しめられている患者さんを大勢見てきました。(今後、ブログで実際の症例を紹介します。)
「あの時、しっかり治療していれば」
「あの時はサポーターで治るって言われたんです」
「え、前の捻挫が関係してるんですか?!」
患者さんの悲痛な声が頭の中に響きます。
何に対して治療しているかで、治療方法への考え方は大きく変わります。
このブログの読者の方々は、この論文に書いてることはそのままの情報として受け取るべきだということを理解してください。
これにてほねゆきの論文レビューを終わります。
『Managing ankle sprains in primary care: what is best practice? A systematic review of the last 10 years of evidence』Richard Seah 1, Sivanadian Mani-Babu