20年くらい前の話。まだほねゆきが免許をもらってすぐの頃の話。
隣町に上腕骨外顆回転型(最も徒手整復が難しいと言われていた)が来た接骨院があり、しかもそれを上手く整復して保存で経過をみているという噂が立った。
ほねゆきはまだ外顆骨折どころか肘内障さえもきちんと見たことがなかったが、回転型をどうやって整復するのか、どうやって固定するのか気になって夜も眠れなかった。
しかし、隣町という以外に全く情報がなかったため、電話帳で隣町の接骨院に片っ端から電話をかけまくった。
「突然すみません、O接骨院の…」
「誰だお前は!仕事の邪魔だ!」
ガチャンッ
「そちらの周辺で上腕骨外顆こっ…」
「来ても弟子以外に教えるわけ無いでしょ!」
ガチャンッ
そして15軒目くらいで、
「外顆骨折の回転型が来たという話を聞きまして…」
「ウチだよ。本当に聞きたいなら直接来なさい」
「ほんとですか!?行かせてください!」
ほねゆきは地元で1番生クリームを多く使っている高めのケーキ屋さんでシュークリームを10個買って、その接骨院へ向かった。
「あの…先日お電話させて頂いたほねゆきと申します!Y先生はいらっしゃいますか?お話を聞きたく、参りました!」
「Y先生は今は道場で稽古中です」
「わかりました!」
その先生は街で1番厳しいとされる道場(もちろん柔道)の師範であることを事前に聞いていたため、正直ビビり上がった。
道場に通ったことのある先生はわかると思うが、稽古中の先生は本当に怖い。普段優しい先生でも急に怖くなる。
恐る恐る聞いた場所に行くと、さっそく怒号が飛んでいた。
「貴様、何ぬかんとんじゃ!立て!背中見せるな!」
おぉ….今にもチビりそうだったが、玄関前で気をつけの姿勢で稽古が終わるのを待っていた。すると突然、
ガラガラッ
Y先生が道着姿のままご登場。気を抜いていたほねゆきは、何も悪くないが思わず謝ってしまった。
「す、すいません!」
「何がすいませんか。誰だ?」
「お電話させていただいた、ほねゆきと申します!是非、お話を聞きたくて!」
「どこのもんか?」
「O先生のところで修行してます!」
「あいつか…飯行くぞ」
ほねゆきはいきなりY先生の高級車に乗せられて、近くのハンバーグレストランに連れて行ってもらった。
「あの…これ手土産です。」
「おう…..店員さん、ハンバーグAセットを4つ。」
4つ?!その場にはもちろん、ほねゆきとY先生の2人きりだ。なぜ4つ….俺は3つ食わないと情報をくれないのか…
そう思ったが、とりあえず考えるのをやめて質問をぶつけてみることにした。
「先生、いきなりで申し訳ないんですが、少し前に上腕骨外顆骨折の回転型が来たと聞きました。どうやって整復したんですか?」
「聞きたいか?」
「はい。まず、回転しているかどうかはどうやって見分けますか?」
「触れば分かる。他には?」
触れば….ダメだ、さすがに今日会った人間に詳しく教えてくれるわけないか…。そう思った時に急にY先生が口を開いた。
「悔しいけどあれはマグレだ。理論をもって整復できたわけじゃないし、接骨院で整復固定を先にしたから、回転していたという証拠のレントゲンも残っていない。それじゃダメなんだ。今回はそれだけ言いたかった。」
Y先生はAセットを3つ平らげて、伝票を持って席を立った。食い過ぎだろと思いながらも、ほねゆきも急いで食べて後ろをついて行き、店を出た。
「でも、その後の経過はいいんですよね?」
「問題ない」
「じゃあ、整復できたってことですよね!回転型かどうかなんて、きっと先生ならすぐにわかりますよね!」
「正直わかる。整復は直接骨片を触って戻した。だけど、人に説明できるほどのことでは全くない。予後に関してもこれからを見ていかないとなんとも言えない。整復固定後のレントゲンは形が綺麗に揃っていたけど、ただそれだけ。」
バタン!
Y先生は、ほねゆきを駅の前に下ろしてすぐに車でどこかに戻ってしまった。
と、このように昔は経験談を聞くだけでも時間と労力とコネと愛想が必要だったのです。しかも、連続したコミュニケーションは難しい。
ところが、今の時代はSNSやブログで簡単に体験談を得て、仮想的に体験し失敗を予防することができます。
ほねゆきはそこに活路を見い出しています。吸収する意欲と読解能力があればいくらでも経験値を積むことができます。
メタルスライムを倒しにいかなくても、ヒミツのバイブルを使えばいいだけです。
ほねゆきのブログやSNSでの発信をチェックするだけで簡単に臨床体験できます。みなさんのすることはただ一つ。
情報に疑ってかかるということだけです。
ほねゆきは敢えて臨床での経験をベースに話を進めていますので、そこには事実しかありません。
方法だけ語ってわかりやすく伝えている情報には、一度懐疑的になった方が、質の良い時間を過ごせるかもしれません。
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