” 腓骨遠位端骨折 ” 見落としの結末③

落ち込む女の子

この記事は前回の記事の続きです。まだ読んでいない方は” 腓骨遠位端剥離骨折 ” 見落としの結末①” 腓骨遠位端剥離骨折 ” 見落としの結末②を読んでからこの記事を読んでください。

目次


  • これまでのあらすじ
  • エピソードの結末
  • 最後に

文章中で “捻挫” と記述している部分について

ほねゆきは “捻挫” という単語を「捻ったという単一事象」と「一般的に病院などで使われる、骨折がない状態=靭帯などの軟部組織損傷」との2つの意味で使っています。捻挫した結果、骨折が発生することもありえますし、軟部組織損傷のみのこともありえます。この言葉の使い分けは柔整独特のものでしょうか。患者さんは「骨折がなければ捻挫」という認識でいます。今回は患者さんの発言も記載しており、混同しやすくなっています。これまでの①、②の記事においても同様の言葉の使い方をしておりますので、認識を誤らないようにお願いいたします。

これまでのあらすじ

これまでの問診において、様々なことがわかりました。これまでの問診にて疑われる最悪のシナリオは以下の通りです。

“過去に骨折があったが前に診てもらったところにて骨折を見逃されて捻挫として治療を受けた。誤診に気づかずに初期治療に失敗し、骨癒合不全のまま症状が先に腫脹や自発痛などの引いてしまったため、1ヶ月で治癒とされる。その後4回程度、捻挫を繰り返す。母親は、捻挫は完全に治ったものと認識しており、捻挫を繰り返す理由が患部ではなく、本人の性格にあると思っている。今回また捻挫してしまい症状が強かったため来院している。”

女の子に待っていた事実とは一体なんなんでしょうか。

エピソードの結末

エピソードの続きを見ていきましょう。

 

院長 「なるほど…それ以降は先ほど話があったように、捻っていたけどお母さんに言うほどの症状ではなかったということですね。」

お母さん 「そうみたいですね、すみません。」

院長 「お母さんが謝ることではありません。では、患部を見せてくださいね。」

 

院長が患部を確認したところ、足関節外果下部に中等度の腫脹があります。外果剥離骨折を思わせるような小さいコブ状のパツっと限局した腫脹ほどはないですが、骨折も疑っていいほどの腫脹です。足関節内側は外観でわかるほどの腫脹はありません。

さらに、足関節は自然下垂位において健側と比較して内反しています。外側の腫脹により内反しているというよりは、ノーマルの足関節のポジションが内反位にあるような様子です。

自動運動での疼痛はそれほど強くありません。

触診にて、下記の情報が得られました。(触診順に記載)
・三角靭帯前部繊維〜内果と距骨内側の関節裂隙にかけて軽度の圧痛あり
・足趾、踵部には症状なし
・舟状骨内側が健側と比較してやや大きく肥大しており、軽度の圧痛あり
・腓骨遠位後方(腓骨筋腱)圧痛なし
・外果先端圧痛なし
・CFL圧痛なし
・外果前下方先端に著名な圧痛あり
・ATFL軽度の圧痛あり
・前脛腓間は圧痛なし

外果下端の前下方(ATFL付着部)に著名な圧痛があり、腫脹の中心も一致しています。予想した通り、ATFLの単独損傷ではなさそうです。骨性に限局性圧痛があるようです。

では、内果側・舟状骨内側の圧痛がある点についてはどうでしょうか。臨床経験豊富な先生であれば、容易に想像がつくでしょうが、今回の腓骨遠位端剥離骨折の見落としからは話が逸れてしまうので、またいずれ解説します。解説希望があれば、予測と共にコメントください。

院長は患者さんに腓骨遠位端剥離(裂離)骨折の可能性、もとい陳旧性腓骨遠位端剥離(裂離)骨折の再骨折の可能性を説明し、患者さんに帯同した状態で提携先整形外科に伺い、ほねゆきが撮影介助(撮影肢位の決定の補助)を行いました。

結果、整形外科院長の診察にて腓骨遠位端剥離骨折の診断がつきました。

レントゲンフィルムをカメラで撮影したものです。画質が悪く、見にくいですが腓骨下端に骨片があるのがわかると思います。

このレントゲンを見て、新鮮な剥離(裂離)骨折ではないと分かる先生は多いと思います。

・骨片(骨折線)が正面像ではっきり写っている
・骨片の断端が丸みを帯びている
・骨片が異常に大きい
・歩行可能な事や腫脹の程度などの臨床症状がレントゲン像と一致しない

しかし、臨床の現場において確実性が99%でも、100%でなければ断定して患者さんに事実を伝えることはできませんし、前医(前柔整師)のことを批判することはどんな状況であれ正しくありません。

んーー。この感情は一体どこにぶつければいいのでしょうか。

この子が足関節の不安定性を改善するには、もう観血的療法しか方法が残されていないでしょう。現代においては、体外衝撃波は偽関節の癒合に効果的と言われていますが、患者さんの負担を考えると第一選択ではないように思えます。

その後、この女の子は手術を含めた治療法を探すことになりました。

初診の段階で正しく骨癒合させられていれば、このような悲劇にはならなかったのでしょうか。ほねゆきが初診時に対応できていれば、よく治って捻挫の危険に晒されることなく今頃は元気に走って遊べていたのでしょうか。いいえ、わかりません。

今回の話で誰が悪いとかいう議論は必要ないですが、接骨院を構えている柔整師、整形で勤務している柔整師はこのようなこともあるんだと胸にしっかりと刻んでおきましょう。

最後に

このエピソードには実は後日談があります。ほねゆきが接骨院の玄関掃除中に女の子のお母さんが接骨院前を偶然通りかかったので、ほねゆきがお母さんを捕まえて(急いでいるところすみませんでした)女の子の話をきいたのです。

結局、女の子は手術に踏み切れず、運動を一切辞めて捻挫の予防に努めているといった内容でした・・・・・。

女の子の身体的・精神的な負担、家族の援助や精神的な負担を考えると無理はありませんし、当時は今と違って(今もそうかもしれませんが)偽関節後の手術など一般的ではなかったと思いますし、できる先生は限られてたと思います。

本当に考えさせられる症例で、今でもこうやって詳細を書き起こせるくらい衝撃的な症例でした。最後まで見ていただきありがとうございます。

この症例には実は、ほねゆきが提示した症状だけだと矛盾する箇所があります。何か考えるきっかけになればと思い、足関節内側の圧痛についてなど、すべては語っていません。コメント等で要望があればまた記事にしたいと思います。

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2件のコメント

大変楽しく読ませていただきました。
こちらの記事の、圧痛部位の確認のところですが
内側・舟状骨等を確認する意図としては外反捻挫による後脛骨筋の牽引ストレスや距骨と内果がぶつかることによる骨損傷を疑っているのではないか?と考えましたが、視点としてはいかがでしょうか?

コメントありがとうございます!

捻挫を繰り返し、内反動揺性がある状態で、再度内反すると、靭帯が生きている状態の時よりも早い速度で、かつ大きく内反にぐらっと動きます。(と、考えられます。)それにより、「内果と距骨の衝突」さらに内反すると「内果と舟状骨の衝突」が起きます。外反捻挫による後脛骨筋の牽引ストレスにより舟状骨内側に症状が出るというのは理論的に正しいですが、内反しやすくなった足関節・足部が外反するには、相当な外反力や条件が必要なので、内反動揺性が強くなっている症例においては考えにくいでしょう!

これからもよろしくお願いいたします。

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