尺骨突き上げ症候群の実際

手のレントゲン画像

尺骨突き上げ症候群とは?

医学雑誌で「尺骨突き上げ症候群」に関する論文は多く掲載されています。

尺骨突き上げ症候群は尺骨が橈骨に対して相対的に長くなるため、月状骨や三角骨など尺側に位置する手根骨に圧力が加わって発生します。症候群なので、尺骨が突き出ていることにより起こる症状を総じた言い方ですね。

症状として多いのは、手を強く握った場合や、回内して重い物を持つと手関節尺側に疼痛がでるというものです。また、三角線維軟骨複合体(TFCC)損傷、月状三角骨靭帯(LT)損傷、遠位橈尺関節変形症なども引き起こします。

手関節のX線像を見る場合は、掌側傾斜、橈骨傾斜および橈骨長などを計測して、それらが基準値内にあるかどうか確認すると、尺骨が突き上げているのか否かは判断できます。

a〜gが何なのか答えられますか?

ほねゆきは計測の基準値などはあんまり臨床では大事ではないと思っているので、わざわざ計測することは今となってはあまりしませんし、調べればすぐ出てくるので基準値は何となくしか覚えていません。

しかし、知識はあって困ることはありません。学生のみなさんは試験対策としても覚えておきましょう。

ほねゆきが経験した症例

尺骨突き上げ症候群は手掌を衝いて転倒するなど急性外傷に起因して発生するものの他、肉体労働者の人たちが手関節を酷使するなど亜急性(反復性・継続性)外傷に起因して発生するものもあります。

荷物を持ち続けたりするなど手関節を反復して酷使しているうち、手関節に痛みを覚えます。そのような患者さんは、私たちの接骨院に来院するケースも少なくありません。

fig1.65歳,男性

上記レントゲンは、橈骨長が短縮しているのが分かりますね。橈骨関節面にも変形が見られます。また、遠位橈尺関節が離開しているのがわかると思います。

fig1のこの患者さんは、実は橈骨遠位端骨折・尺骨茎状突起骨折後の変形治癒により尺骨突き上げ症候群となってしまった患者さんです。

8年前に転倒して手をつき、自宅近くの医療機関(あえてこういう言い方です。)にて転位軽度のため保存療法を選択され、3週間のギプス固定後に5ヶ月ほどリハビリに通い、痛みや可動域制限が残りながらも健康保険の関係で治癒とされたといいます。

8年も経ってから、「髪を洗うだけでも痛くなってきた」と言ってほねゆきのところにきた患者さんです。半年ほど施術したのちに日常生活には支障なく復帰したので終了となりました。もちろん、骨の変形や関節の適合性は戻りません。

fig2.58歳,男性

上記レントゲンは別の患者さんですが、尺骨頭が背側に脱臼しているように見えます。前腕中間位でこの側面像を取っているとすれば、尺骨がこれほど背側に写っているのは異常です。

fig2の患者さんは肉体労働者で手関節を酷使しているものの、手掌を衝いて転倒するなどはっきりとした原因はこれまでに経験がなく、症状を訴えて来院されました。

臨床所見としては、手関節掌側(または背側)から見た外観で幅が広くなっているのが分かります。片方の手関節だけに見られる場合は、健側と比較して幅が広くなっているのが分かりやすいですね。

また、この患者さんはTFCC部(手関節尺側裂隙)に圧痛が認められました。尺骨突き上げの患者さんは、この部位に疼痛を訴えて来院するケースが多いですね。

遠位橈尺関節は常に離開しているわけではありませんが、尺骨突き上げ症候群の症状が進行するのに伴い、離開する傾向にあります。遠位橈尺関節を橈側および尺側から挟む(遠位橈尺関節に両側から圧を加える)ように徒手検査すると、痛みを訴えます。

尺骨突き上げ症候群は病変の進行に伴い、遠位橈尺関節離開、尺骨頭の背側脱臼、変形性手関節症などを引き起こします。進行したものでは観血療法の適応ともなるようですが、日常生活がある程度保たれていれば、積極的に手術を行う先生は少ないようです。

尺骨突き上げは悪?

ほねゆきは過去に、明らかに尺骨突き上げ像があるにも関わらず、全く症状を訴えない患者さんを何人か見たことがあります。

遠位橈尺関節が脱臼していても、脱臼した先でなんとなく仮の関節ができていればある程度の回内外は保たれます。橈骨が短くなって尺骨が突き上げてTFCCに異常な圧力がかかっていたとしても、手部が常に橈屈方向に逃げていれば除圧されます。

尺骨突き上げ症候群の発症初期には疼痛があったとしても、炎症が終わって痛覚神経が無くなれば疼痛症状はないでしょう。

このように、必ずしも尺骨突き上げ=症候群といわけではなさそうですね。

しかし、骨折の治療不十分による尺骨突き上げ症候群は悪だと思います。

現場での「尺骨でてて遠位橈尺関節の適合性悪そうだけど、なんで症状ないの?」など、疑問をもって臨床にあたることは非常に大切だと思います。