前回の記事の続きです。まだ読んでいない方は” 腓骨遠位端剥離骨折 ” 見落としの結末①を読んでからこの記事を読んでください。
目次
- エピソードの続き
- さいごに
エピソード(続き)
これよりも前の問診で、女の子(小学6年)が腓骨遠位端剥離骨折を見逃されて、足関節に不安定性が残ったことが推測できました。実際はどうなんでしょうか。さっそく見ていきましょう。
以下、前回の記事の最後で交わされた会話からスタートです。
院長 「引っ越しされたんですね!過去に何度ほど捻挫をしてますか?」
お母さん「さっき言った1回だけだと思います」
女の子 「いや、5回くらいあるよ!すぐ治ったけど笑」
お母さん 「そうなの?!」
院長 「たくさん捻ってしまったんですね。1番最初に捻ったのがいつ頃かわかる?」
女の子 「3年生のとき!」
お母さん 「じゃあ、さっき言った〇〇〇〇に通った時が最初です。その後も4回も捻ってたのね。なんで言わなかったの?」
女の子 「すぐ治ったから!」
この会話も1つつづ詳しく見ていきましょう。
まず、お母さんは捻挫の既往が1回だけだと思っていたという点です。女の子は捻挫の既往が5回あると自覚していますが、「すぐ治った」と言い、母親には捻挫したことを報告していなかったようです。
これは珍しいことではないと思います。母娘のコミュニケーション不足と言ってしまえばそれまでですが、今回はそれほど症状が出なかったため母親には捻ったことを報告しなかったのだと思います。
これは足関節に不安定性があって捻挫を繰り返している人によくある問診時の訴えです。「クキっと捻るんだけど、あんまり痛くなくて、すぐ歩けるようになる。」という話には注意しましょう。
次に、女の子が初回の捻挫は3年生の時と言っていることに注目しましょう。受診時は女の子は6年生ですから、初回の捻挫から3年ほど経っています。初回の捻挫時に腓骨遠位端剥離骨折もしくはATFLなどの靭帯損傷があって、それが正しく修復されていないとなると、これはもう不可逆的な変性が起きていると考えるのが妥当でしょう。
ほねゆきは3年前の剥離骨折偽関節を保存療法で癒合させよと王様から命令されれば、死刑を免れるために亡命します。
さて、問診の続きです。
院長 「では、過去にしっかりと医療機関にかかったのは3年生の時の一度きりですね?」
お母さん 「はい。」
院長 「その3年前の時はレントゲンやCTを撮ったりしましたか?」
お母さん 「はい。レントゲンを撮ってもらって骨折はないということでした。外くるぶし側の靭帯が少し伸びたのだろうと言われました。CTは多分撮ってないです。レントゲンは撮ったと思うんですけどあんまり見せてもらってはないです。」
院長 「レントゲンは何枚くらい撮ったか覚えてる?」
女の子 「んー、わかんない。」
院長 「通院はどのくらいの頻度・期間でしたか?」
お母さん 「1日おきで通って、だいたい3週間か1ヶ月くらいでした。」
院長 「最初はギプスか添え板の固定をしましたか?」
お母さん 「あんまり覚えてないですが…あっ白い板を当てて包帯で巻いてました!」
院長 「お母さんが巻き直してたんですか?」
お母さん 「リハビリに行った時は先生が巻いてくれてましたけど、家では最初はお風呂の時に外してお風呂から上がったらまた私が包帯を巻いてました。」
ここまでの会話をこれまでと同じように振り返っていきましょう。
お母さん曰く、3年前にレントゲンを撮っているが骨折はなかったということです。そのほかの検査もそうですが、レントゲンはあくまでもひとつの検査に過ぎません。「レントゲンで骨折がなかった」という言葉をそのまま受け入れてはいけません。
「レントゲンで骨折はなく捻挫と言われた」という発言に関して、
①お母さんの記憶が間違っている
②レントゲンに写りにくい骨折があったかもしれない
③”新鮮な”骨折はないという意味だったかもしれない
などなど、さまざまな可能性を瞬時に頭の中に思い浮かべなければなりません。
院長がレントゲンを何枚撮ったか聞いたのは、
①2方向のみ撮ったのか、4方向撮ったのか推測する
②腓骨遠位端の接線撮影(タンゲンシャルビュー)を撮ったか推測する
③健側を撮影したのか推測する
④病態説明時にレントゲンを何枚見せられたのか推測する
などなど、いくらでも思考を巡らせることができます。取れる情報はなんでも取ったほうがいいのです。もちろん、なんでも聞けばいいというわけではありませんが。
次に、通院頻度と期間についてです。
頻度は2週間に1回などの極端に通院が少ない場合には、何か事情があるのかなと考えなければなりませんが、1日おきという回答でしたので特に問題視する必要はないと思います。
通院期間は、3週間〜1ヶ月で治癒というのは
①やはり骨折ではなく軽度の捻挫だったのかと考える
②組織修復は終わっていないが、あくまでも腫脹が消失して日常生活動作での自覚症状がなくなった期間がそのくらいだっただけだと考える
③患者さん側の事情で通院をやめたと考える
などの可能性が挙げられるでしょうか。
次に、受傷初期において脱着できるシーネもしくはシャーレ固定を使用して自宅で入浴するたびに母親が固定の管理をしていた点について考えましょう。
前提として、足関節捻挫(靭帯損傷)でも骨折でも組織がうまく修復するためには患部の安静が必要です。その安静が、損傷された組織において細胞の足場を作るのには必須です。
では、安静の程度はどうでしょうか。シリンダーギプスで脱着を許さず患部安静を長時間維持する場合と、自己脱着させてゆるく患部の安静を保つ場合とは臨床において使い分けられます。この3年生の時の病態においてどちらが適切だったのかはそのときの先生にしかわかりません。
しかし、軽度の組織損傷であれば当時の処置は適切な可能性が高く、剥離骨折や程度の大きい靭帯損傷であれば不適切な可能性が高いということははっきり言えるでしょう。
これはどの医療機関においても言えますが、初期に強固な固定が必要な場合に「家で外してまた巻いてね〜」などといういい加減な患者指導が行われるケースは多いです。注意して問診を行いましょう。
さて、問診の続きを見ていきましょう。
院長 「通院が終了した後はすぐに運動に復帰したのですか?サポーターか何か使っていましたか?」
お母さん 「本人がまた捻りそうで不安だと言うので、スポーツショップで買ったサポータを使っていましたが、何回か使ってめんどくさくて使うのを辞めてました。」
院長 「なるほど…それ以降は先ほど話があったように、捻っていたけどお母さんに言うほどの症状ではなかったということですね。」
お母さん 「そうみたいですね、すみません。」
院長 「お母さんが謝ることではありません。では、患部を見せてくださいね。」
今日はここでおしまいです。次回はいよいよ患部の観察から、整形がわかります。
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