オタワアンクルルールを使うことの危険性

オタワアンクルルールの画像

非常に叩かれそうなタイトルですが、批判覚悟で書きたいと思います。

柔整師などの足部外傷について専門性を持った医療者が、オタワアンクルルール(Ottawa Ankle Rulesを盲信して使い、診断(判断)や治療につなげることに非常に危機感をもっています。

ほねゆきが初めてオタワアンクルルールを知ったのは6年ほど前でした。

当初は、名前だけ聞いて「なんだ、それは」と思っていたのですが、ちょっと前から柔整師の間でオタワアンクルルールが広まり、実際に現場で使っているような話を聞いたので、改めて調べて、ほねゆきの考えをシェアしたいと思います。

目次


  • 時間がない方のためにこの記事の3秒要約
  • オタワアンクルルールとは?
  • 誰が作ったか
  • 信頼性は?
  • ルール作成の背景
  • 柔整師が使うのはどうか

では、見ていきましょう。

時間がない方のためにこの記事の3秒要約

オタワアンクルルールは柔整師向けのものではありません。そもそも、レントゲンを撮るかどうかのトリアージの基準なので、ルール内では軟部組織損傷は無視です。柔整師ならしっかり臨床所見を取って、それが何であるか判断しましょう。

時間がない方はこれより先は読まなくてもいいかもしれません。時間のある方は是非読んでみてください。

 

 

ここまで読んだ方に、誤解がないように申し上げます。今回の記事はオタワアンクルルールを否定するものではありません。カナダを始め、欧米諸国、日本においても活用されており、ルールの成り立ちを理解した上で正しく運用されれば非常に使い勝手の良い規則です。今回は、表面的な知識で患者さんにルールを適用させてしまう医療者への警鐘記事となっております。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

オタワアンクルルールとは?

オタワアンクルルールは、簡単に言うと「決まった部位を押して痛ければ骨折の疑いが強いからレントゲンを撮った方がいい」というルールです。

オタワアンクルルールポスターより引用

A)外果の遠位6cmにおいて腓骨の後縁〜外側の圧痛がある
B)脛骨の遠位6cmにおいて後果〜内果の圧痛がある
C)第5中足骨の基部の圧痛がある
D)舟状骨の圧痛がある
E)損傷直後から4歩以上歩けない

上記(A〜E)のうち、一つでも当てはまれば骨折を疑ってレントゲン検査をするというものです。決まった場所を順に触ればいいので、専門でない医師及びコメディカルでもレントゲンが必要かどうかを判断できます。

誰が作ったか

オタワアンクルルール(Ottawa Ankle Rules)は、カナダのオタワ市立病院(Otawa Hospital )において1992年にスティル・イアン医師(Dr.Ian Stiell)らによって作られたルールです。

足関節外傷に対して、それがレントゲン検査が必要なものなのかどうかを医療者が判断する際に、データに基づいた規則を作ろうとして開発されました。

救急科を受診した患者さんレントゲンを調べた結果、診察時間の98%が骨折診断において無意味な時間だったと分かったそうです。(=骨折診断をするだけを考えると大部分がそれに直結しなかった。)

その後その診察体制を改善するために、750人以上の患者さんを対象にデータを取り、オタワアンクルルールを策定したそうです。

出典:オタワ病院の歴史

信頼性は?

オタワアンクルルールは発表後に多くの医療者が研究し論文を発表しています。

Bachmann LM らはいくつかの論文をまとめて以下のように結論づけています。

オタワアンクルルールは感度がほぼ98%、特異度が42%で足関節・足部の骨折の発見に非常に役立っている。不要なレントゲン撮影の数を30〜40%削減できる。

「Accuracy of Ottawa ankle rules to exclude fractures of the ankle and mid-foot: systematic review」Bachmann LM etc.

オタワアンクルルールで例えれば、感度とは「骨折患者においてルール陽性だった(項目に合致した)場合に本当に骨折がある確率」のことで、特異度とは「骨折がない人においてルール陰性である(項目に合致しない)確率」のことを言います。

例えば全患者数の半分に骨折患者がいるとすれば、陽性となれば63%の確率で本当に骨折があり、陰性となれば95%の人に本当に骨折がないということです。

では、どのような背景があってこのルールが作られたのでしょうか。

作られた背景

まず、これはオタワ市民病院の救急外来において策定されたルールです。整形外科専門医でなくても骨折かどうか判別できるようにしたかったという背景があると思います。

オタワ市のあるカナダは、医療機関へのアクセスが悪い、待ち時間が長いという問題があるそうです。

カナダでは医療機関を利用するにはまず地域の家庭医を受診する必要があります。

しかし家庭医は実数が少ない上に予約制で1日の診察人数を制限している場合が多く、新規の患者を受け付けていない場合が多いと言い、家庭医を持てた場合でも予約が1~2週間後になるそうです。

さらに重要なのが、専門医は実数が制限されている上、家庭医の紹介なくしては受診できないシステムになっているため、悪性度や緊急度が高くない限り数週から数ヶ月先にしか予約がとれない状況です。

さらにCTやMRIなどの高額医療検査機器の数が日本に比べて極端に少なく、検査の待ち時間も数週から数ヶ月先という状況が常態化しているそうです。

レントゲン検査機器はCTやMRIに比べると普及しているようですが、日本のように全症例にとりあえずレントゲンというような状況にはないようです。

日本がどれだけ検査に恵まれた(諸外国と比較すると過剰医療?)国か実感できますね。

という中で、家庭医を持っていない患者さんが受診できるのは、ウォークインクリニック(注:ショッピングモールや街中にある簡易診療施設)ですが、常に混雑しておりオタワ市内の場合数時間待ちが平均です。

さらに、ウォークインクリニックには、レントゲン検査機器、血液検査機器等日本の診療施設では基本的な設備を設置していないところがほとんどのようです。

ウォークインクリニックの時間外や週末及び重症の場合は、オタワ市立病院のような総合病院(公立)の救急外来(Emergency Room : ER)を受診することになりますが、緊急性が無いと判断された疾患については後回しにするというシステムが徹底されています。

このERにおいては、患者のトリアージ(ふるい分け)がトレーニングされた看護師によって行われているようです。

オタワ市の医療事情

・すぐに専門医を受診できない
・受診しても十分な検査機器がない場合が多い
・検査機器があっても患者数が多いので本当にその検査が必要な人以外は受けられない
・緊急の場合は救急外来を受診できるが、生死に関わるもの以外は後回しされる
・救急外来を受診した際は、看護師等のスタッフがトリアージする場合がある

ここまで読まれた方はピンとくると思いますが、オタワアンクルルールが生まれた背景には日本とは全く違う医療事情があるようです。

対して日本の医療事情は全く違います。

日本の医療

・すぐに専門医(柔整師)を受診できる
・多くの医療機関があり、検査機器も比較的十分にある(CT・MRIの保有台数は世界でもトップクラス、レントゲン機器は当たり前に導入)
・患者数も諸外国と比べると少ない
・軽傷なものに対しても比較的高水準な医療が提供される
・基本的にはすべて医師(柔整師)が診察する

参考:外務省HP 世界の医療事情 カナダ

ルールを使わずとも、適切な医療を比較的迅速に受けられるのですね。

では、レントゲンを撮れない柔整師には向いているのでしょうか。

柔整師が使うのはどう?

結論から言うと、「その後に誤診(誤判断)がなくしっかりと治療されていればルールを使うこと自体は問題ないが、それに頼って骨折かどうか判断するべきではない」とほねゆきは考えます。

柔道整復師はもちろん、自分の意志でレントゲン検査をすることはできません。そういった事情もあって、一部の柔整師が現場でオタワアンクルルールを使っているのでしょう。

前述した通り、オタワアンクルルール自体やそのルールを使用することはなにも問題がないと思うのですが、思考停止している柔整師には注意が必要です。

どうしようもない柔整師(架空)

オタワルールやってみて陽性だったんで、骨折っすね〜

うりゃあああああああああああぁぁぁあ!

危ない、殴りかかるところでした。

これまで見てきたようにオタワアンクルルールとは、言ってみれば「専門知識がなくても絵の通り触れば骨折の疑いが強いかどうか分かるよ」というものなので、専門外の人や、トリアージスピードが最優先という人が使うべきものです。

柔整師であれば、受傷機転や外観、患者情報からしっかりと傷病を予測して、最後に患部の圧痛などを確かめるというように、理論立てて骨折の疑いかどうか判断をする必要があるでしょう。

そうでなければ、施術方針など立つはずがありません。

上記のどうしようもない柔整師(架空)のようなことをするのであれば、柔整師を名乗らない方がいいでしょう。偉い先生から怒られるかもしれません!(笑)

最後に

日本人の多くは海外から輸入されたものに憧れを持ちます。ほねゆきもそうです。ドデカミンよりコーラが好きです。

しかし、流行りのルールに縛られて患部を診ることの本質を見失ってはいけません。

今回は「あの有名な先生がセミナーで紹介してたし、感度ほぼ100%だから足関節外傷きたらこれ使えばカンペキ」と考えている人を見かけてしまったので、こんな荒々しい記事を書いてしまいました。。。。

柔道整復術とは受傷から治癒まで一貫した管理を指すと考えます。

自分にも毎回言い聞かせていますが、骨折があるかどうか、レントゲンを撮らないといけないかどうかを判断できるというだけでは、柔道整復術をやっているとは言わないと思います。

このブログをここまで読んでくださった方は、とても熱心に外傷について勉強している、もしくは勉強しようとしている方だと思います。ほねゆきもまだまだ至らぬ点が多く、臨床力も未熟ですので、みなさんと一緒にますます勉強していければと考えています。

最後に、この記事はオタワアンクルルールをはじめ、特定の団体や個人を批判するものではありません。また、柔道整復師とはこういう存在でなければならないとほねゆき個人の考えを押し付けているわけでもありません。ひとつの指標を使って、それが全てであると考えることは、患者さんの体を扱う時においてあらゆる危険性が潜んでいるとお伝えしたいものです。誤解がないようにお願いいたします。