鎖骨整復台は使えるのか否か

鎖骨整復台の画像

鎖骨整復台(さこつせいふくだい)とは、柔整師が考案した整復ツールの一つで、背臥位になった時に、脊柱にあてがう細い台と頭を支えるU字の台からなる、いわゆる胸郭拡大マシンです。江戸時代にその原型は発明されていたと昭和の書物に記載があったそうです。

考案した人や発明した年代などはあくまでも噂で、しっかりと書物に記載されていることはないようです。ほねゆきが教員時代に色々と調べたんですが、わかりませんでした。もし、「この書物に書いて(描いて)ありますよ!」なんてことがあれば教えてください。(笑)

柔整師の皆さんであれば鎖骨整復台は知っているでしょうが、その他の職種や一般の方は名前を聞いてもピンとこないと思います。ほねゆきには文才も言語化能力もありませんので、どんな道具なのかを文字で伝えるということは諦めます。(笑)

10年ほど前までは柔整学校で1校に1台は実物が置いてあることが当たり前でしたが、現在では鎖骨整復台をおいている柔整学校や接骨院はあまりないそうです。柔整の教科書にはイラストや写真と共に記載があるので、柔整師であればなんとなくイメージはつくと思います。

ほねゆきが描いた鎖骨整復台のイメージ画像。
ほねゆきは所有していないので著作フリーの写真がありませんでした。

現代において実際に患者さんに使ったことがある先生や、試しに寝てみたことがある先生は少ないのではないでしょうか?さらには鎖骨整復台を使って、実際に鎖骨を整復固定したことがあるなんていう先生はもっと少ないことでしょう。

当のほねゆきも柔整学校を卒業してからというものの、現場で鎖骨整復台を見たことがありませんでした。もっぱら鎖骨の整復は、ベッドに背臥位にして肩甲帯ごとベッドの端から出すようにして骨片を操作したり、座位のままで患者さんの後ろや横から立って操作したりしていて、それで事足りていたのでほねゆきは今まで鎖骨整復台を実際に整復に使用したことはありません。

しかし、1年ほど前になんと、「鎖骨整復台使って鎖骨の整復固定してるよ」という先生に出会ってしまったのです。しかも話を聞いてみると、接骨院で鎖骨整復台を使って今までに10〜15人は施術しているとのこと!

これはすごい(めずらしい)と思い、いろいろとお話を聞いて、ほねゆきなりに考察しましたので、みなさんにも是非今回のブログは読んでいただきたいです!

前置きが長くなりましたが、今回の記事で得られる情報は下記の4つです!


  • 鎖骨整復台(さこつせいふくだい)とはなにか
  • 鎖骨整復台の問題点
  • 知り合いの先生は実際にどう使っていたか
  • ほねゆきの鎖骨整復台への考え

では、さっそく見ていきましょう!

鎖骨整復台ってなんぞや

鎖骨整復台を実際に使用している際のイメージ画像。枕子などは省略しています。

前述したように鎖骨整復台とは、鎖骨骨折の整復で使われるいわゆる寝台(寝るための台)です。座位だと重力によって骨片が下がって転位が大きくなってしまいますが、鎖骨整復台を使うとその重力を逆手に取って整復を行えるんです。

柔整師であれば授業で何度も教わることなので驚きはないと思いますが、鎖骨骨折には定型的な転位(統計的に多くかつ理論的に説明のしやすい骨折型)がありましたね。

柔道整復学の教科書の図をトレースしたものです。もう見飽きましたね(笑)

鎖骨骨折の定型的転位(鎖骨中外3分の1部での転位のある骨折)
近位骨片・・・上方やや後方に転位(胸鎖乳突筋の作用)
遠位骨片・・・下垂(上肢の重量)・短縮転位(大胸筋・小胸筋)

上記のように転位した骨片を整復するためには、下記の操作が必要です。

定型的な鎖骨骨折の整復操作
胸郭の拡大(胸を開いて短縮転位除去)→肩甲帯挙上(遠位骨片下垂の除去)→近位骨片の直圧

上記の操作を簡単にしてくれるのが、整復台です。整復台は脊柱プレートが脊柱に縦に沿って、両肩甲帯がフリーな状態なので、台に寝るだけで両肩甲帯が重力で体後方へ下がるので、①胸郭拡大は自動的に行われます。

さらに、患者を背臥位にすることで重力方向が体後方へ変わるので、上肢が自重により下方(尾方向)へ下垂するのを防止するために②上肢(上肢帯)をずっと支えている必要はなく、整復後は上肢台に腕を預けていれば骨片はズレません。

①胸郭拡大は自動的に行われ②上肢(上肢帯)を支えている必要がない。そのため③一人でも整復できる。なんということでしょう。考えた人は天才でしょうか。

鎖骨整復台の問題点

では、鎖骨整復台のバッドポイントはなんでしょうか。ほねゆきが考えつくことをざっと書き出してみます。鎖骨整復台も色々な商品がありますが、だいたいに共通して言えることだと思います。下記に問題点を書きます。

このようにベッドに付随して使用するのが一般的です。
  • 転位によっては使えない
    当たり前ですが、遠位骨片が後方へ転位しているようなタイプ(胸郭を拡大する必要がない転位)には使用できません。もとい、使用する必要がないでしょう。
  • 整復台が高価
    ほねゆきは教員時代に鎖骨整復台を学校のお金で購入したことがありますが、当時(10年以上前)の価格で¥80,000ほどしました。もちろん、価格は時代によって変化しますがちょっと高いですよね。鎖骨骨折の整復料(療養費;施術料金)が10割で¥5,200ですから、回収するのは大変そうです。
  • 脊柱プレートの長さが足りない
    鎖骨整復台は脊柱プレートの端をベッドに乗せて(ベッドの端に掛けて)使用しますが、脊柱プレートが短いため、ベッドにプレートの端を乗せると肩甲帯がフリーになるスペースが無くなってしまいます。結果的に自由に整復できないのです。致命的な設計ミスですね。
  • 脊柱プレートが脊柱に当たって痛い
    整復台は金属のプレートからできており、直接患者さんの体に接触するところは包帯や綿花にて被覆して養生しますが、どんなにふかふかにしても寝てみると「背骨が痛い」です。「ずっと整復台の上に寝てろ!」と仮に言われたら、ほねゆきの場合は10分が限界です。
  • 整復台の上でそのまま固定はできない
    これは一番の問題点ですが、脊柱プレート上に患者さんを寝かせて整復をしたはいいものの、さてそのままでは脊柱にプレートがあたっているので固定ができません。脊柱プレートごと8字帯やクラビクルバンドで巻いてしまうと、整復台ごと患者さんを起こすことになりますが、かなり大変です。体幹にギプスを巻くなども同様に難しいでしょう。


上記の問題点は鎖骨整復台を取り巻く根本的な問題が裏に存在しているために生じるものだと思います。

①鎖骨整復台自体が文化遺産のような位置づけになっており、現代においてそもそも実用的な道具として生産されていない。(そもそももう新規に作られていない笑)
②作成者(業者さん)が柔整師ではないため、鎖骨整復がどういったものか知らない。
③整復台として強度(安全性)と機能性(使いやすさ)を両立させるのが難しい。

しかし、ほねゆきが出会った先生は鎖骨整復台を改造して、これらの問題点をうまく解決?していました。

鎖骨整復台(改)?!

知り合いの先生が施した改造はどんなものかと言うと、鎖骨整復台の支柱を根本から曲げるというものです。本来、完全に患者さんを仰臥位にすることを想定されて鎖骨整復台は作られていますが、それを半座位仕様に変えてしまおうというものです。

知り合いの先生が行った改造のイメージ画像です。切断し、溶接しており強度に問題はありません。角度は30°〜40°ほど倒しています。

これにより、下記の問題が解決します。

  • 脊柱プレートの長さは関係なくなる
    そもそもベッドに脊柱プレートの端をかける必要がないので、脊柱プレートの長さはそれほど長くなくても事足りてしまいます。
  • 脊柱プレートの脊柱への当たりは軽減する
    患者さんを鎖骨整復台の上に完全に仰臥位にさせるわけではないので、その分脊柱プレートにかかる圧力が少なくなり、それほど痛く感じません。
  • 整復台の上でそのまま固定をしやすい
    これは本来の鎖骨整復台とそれほど条件が変わらないように思えたのですが、ほねゆきの知り合いの先生は脊柱プレートにチューブ包帯をあらかじめ通しておいて、脊柱プレートごと8字帯を巻いてしまい、その後に背部から体を支えながら脊柱プレート(鎖骨整復台ごと)を抜き取っていました。完全な背臥位で行う場合よりも患者さんの体を起こすことが容易かつ背部から体を支えやすいため、整復台に寝かせたまま固定しにくいという課題をクリアしています。
  • その他には
    圧倒的に完全な仰臥位と比べて固定の際は術者が作業しやすいです。それに、固定後に脊柱プレートを(鎖骨整復台ごと)抜く作業はイメージするより簡単でした。完全な仰臥位よりも、半座位のほうが患者さんの不安感も少なそうです。
実際に患者さんに使っている際のイメージ画像です。
ベッド上で使用することで術者が操作しやすくなっています。

ほねゆきの知り合いの先生は色々と試行錯誤した結果、改造に踏み切ったそうです。ほねゆきも実際に鎖骨整復台(改)で患者さん体験してみましたが、なるほどそうかといった感じで関心しました。

ほねゆきの考え

ここまで記事を読んだ知識欲たっぷりで勉強家な(物好きの)読者様は色々と言いたいことがあるでしょう。今回ご紹介した知り合いの先生の改造にはもちろんその過程があります。接骨院の柔整師が2名しかいないこと、たまたま柔整学校から鎖骨整復台を譲り受けて所有していたこと、など諸条件があったうえで最適化されているのです。

当然ですが、条件が変われば今回紹介した鎖骨整復台(改)は使い物にならなくなる可能性もあります。今度は、鎖骨整復台(改)の問題点を考えてみましょう。これは、ほねゆきの知り合いの先生を卑下するものではありません。なんでも逆説を考察するのが大事です。

  • そもそも改造せずとも同じことできる
    これを言っちゃおしまいですが、「脊柱プレートにチューブ包帯をあらかじめ通しておいて、脊柱プレートごと8字帯を巻いてしまい、その後に背部から体を支えながら脊柱プレート(鎖骨整復台ごと)を抜き取る」という操作はオリジナルの鎖骨整復台でも、やりづらさはあれど可能でしょう。
  • 上肢(上肢帯)は支えてないといけない
    整復台に角度をつけて患者さんを半座位にすると、もちろん重力方向は体後方にはなりません。整復後も術者が支えている必要がでてきます。上肢の自重を上肢台に預けておく作業は完全な仰臥位の場合と比べて難しくなるでしょう。
  • 一人で整復固定を完結するのは難しい
    上肢を支えてないといけないため、完全な仰臥位の場合と比べて、一人ですべてを完結することが難しくなります。
  • 臀部が滑っていく(=整復台が滑っていく)
    これはほねゆきが実際に寝てみて思ったことですが、半座位で体重が座面に逃げている分、座面やズボンの素材によっては臀部が尾側に滑ってしまいます。逆も然りで、整復台が頭側に滑っていく可能性も考えられます。座面などの摩擦係数を上げることで解決はできそうです。
  • そもそも改造は難しい
    ほねゆきの知り合いの先生は鉄筋加工業者に依頼して、切断&溶接をしてもらったそうですが、なかなかハードルは高そうです(笑)

そんなこんなで今回は超マニアックな”鎖骨整復台”について語りましたが、いかがでしたでしょうか。常により良い整復固定の環境を追い求める姿勢は、ほねゆきもしっかり見習わなければならないと感じました。

また、鎖骨骨折のオペはリクライニングベッドで半座位で行う先生が多いと聞いたのですが、詳しい方はいらっしゃいますでしょうか。鎖骨整復において、よりよい整復固定法があれば(実際にやっていなくてもマターがあれば)ぜひコメント欄にて教えてください。

極端な話、柔整師が5人も10人もいれば整復台なんて必要ないのですが実際はそんなわけにはいかないので、改めて先人の知恵はすごいなぁと思いました。。。