【bado分類】Jose Luis Badoの原著論文を見た!

ばどーさんのレントゲン

さて、前回に引き続きモンテギア骨折の話題です。

柔整師は国試の特性上、冠名骨折や冠名分類が好きですね。

じゃあ臨床に役に立たないのかというとそうでもなく、やはり冠名を成しているということはそれなりの歴史があって、それがそのまま現代の医療には当てはまらなくても、そこに至った経緯を知ることで物事の本質をつくことができます。

そこに柔整師が柔整師である重要性が一つ隠れているのではないかと、ほねゆきは思うのです。

ほねゆきは日頃から、「分類なんて覚えてもしょうがない」と言います。

これは、分類は知らなくていいという意味ではなく、「目の前の症例にふたつとして同じものは来ないので、症例を目の前にして、まず分類に当てはめるのではなく、何がどうなっていて何が必要なのかを個別に判断する能力を鍛えるべきだ」と考えているが故の誇張した表現です。

傷病の分類は主に①分類方法に準じた病態の単純化(理解)②治療者間どうしの情報共有③治療方針の決定における根拠の一つ、という手段のためのツールとして使用されるものであって、骨折を分類に当てはめること自体に意味はないのです。

※ほねゆきは①>②>③の順で、重要だと考えています。

特に初学者や経験が少ない人にとっては落とし穴で、分類の存在を盾に、「俺は全てを理解した」と傷病の本質を見失う人が柔整師には多いように感じます。

学生さんから、「骨折の保存療法をするにはAO分類とか覚えたほうがいいですか?」と聞かれたこともありますが、「覚えて損はないけどあなたは整形外科医になって骨折手術をするの?」と返します。

分類は、誰が、誰に向けて、どのような視点で、なにを促したくて(注意喚起したくて)作ったのかを知って使わなければ、分類の作成者の意に反するかもしれません。

前置きはさておいて、今回はbado(バドー)分類についての記事です。

柔整の教科書には確か載っていなかったと思いますので、知らない人も多いかもしれませんが、モンテギア骨折における分類の一つで、有名なものになります。

ほねゆきが臨床に出てすぐに、勤めた先の先生から「これは、バドーの何型かい?」と聞かれて、バドー分類を知らなかったほねゆきが回答に詰まったことは今でも覚えています。

知らなかった人はぜひ、この記事を読む前にググってみてください!

では、いってみよう!

ここから先はかなりマニアックな内容となっておりますのでご容赦ください。また、画像と文字数の関係で、デスクトップでの閲覧を推奨いたします。スマホで少々読みづらくなっていることをお詫びいたします。m(_ _)m

モンテギア骨折の分類の歴史

【モンテギア骨折】Giovanni Battista Monteggia の原著論文を見たという記事で、モンテギアさんやモンテギア骨折の最初の発見については記事にしていますので、まだ読んでいない方は先に読んでみてください。

そして、そんなモンテギア骨折の分類や治療法の確立にもきちんと歴史がありまして、「Monteggia fracture-dislocations: A Historical Review(モンテギア骨折の歴史的観点レビュー)」doi:  10.1016/j.jhsa.2014.02.024という、なんともマニアックな論文も存在します。笑

そこに歴史的な変遷(へんせん)が書いてあったのですが、軽く抜粋要約します。

 1814年 Giovanni Battista Monteggia が症例を記載

1854年 Malgaigne が尺骨骨折と橈骨頭脱臼は合併すると報告

1886年 Doerfler が尺骨骨折に合併する橈骨頭脱臼による後骨間神経麻痺について報告

1900年 Stimson が尺骨骨折に合併する橈骨頭脱臼の治療例を複数報告

1909年 Perrin が Giovanni Battista Monteggia の記述した症例を「Monteggia fracture-dislocation(モンテギア脱臼骨折 *1)」と呼び始めて、その呼び方が一般的になる

*1「Monteggia fracture-dislocation」を直訳すると「モンテギア脱臼骨折」となるが、脱臼している骨と骨折している骨が違うため、日本で言う「脱臼骨折」の定義とは異なることに注意。以下、それを理解した上で「モンテギア脱臼骨折」と記載します。

1933年 Wilson がモンテギア脱臼骨折の症例報告

1934年 Cunningham は尺骨骨幹部骨折に限ってモンテギア脱臼骨折の症例を報告。尺骨骨折の整復と同時に橈骨頭脱臼も整復することを提唱。陳旧例での観血療法も記載。

1940 年 Speed と Boyd はモンテギア骨折の保存療法失敗例を報告

1947年 Smith はモンテギア脱臼骨折における橈骨頭脱臼での輪状靭帯断裂について報告

1950年 Thompson と Hamilton は尺骨の髄内ピンニングがプレート固定より予後が良かった症例を報告

1949年 Evans がモンテギア骨折の伸展型*2のみについて発生メカニズムについて献体で橈骨と尺骨の衝突について実験し報告

1951年 Penrose はモンテギア骨折について屈曲型*2も報告。肘関節脱臼をするよりも尺骨骨幹部が折れる方が易いと報告。

*2当時はもちろん「伸展型」や「屈曲型」という記載はありませんが、ほねゆきの都合によりそう記載しました。

1967年 Bado がこれまで言われてきた尺骨骨折と橈骨頭脱臼の症例(モンテギア脱臼骨折)を「Monteggia lesion」と言い、転位の仕方で分類分けする。その上で保存的治療を報告し、受傷早期から観血的療法を勧める派閥を否定。

2022年 ほねゆきが勝手にブログネタにする

https://doi.org/10.1016%2Fj.jhsa.2014.02.024 の内容を要点のみ時系列で抜粋

やっとbadoさんが出てきましたね。笑

José Luis Badoさん こちらより引用

時間がある人は詳しく読んでみてください。そうすると、「あれ?」と疑問に思うことも出てくると思います。

では、その内容についてみていきましょう。

「The Monteggia Lesion」1967年

さて、モンテギアさんは実際にはどのように文章を書いたのでしょうか。

上記の時代背景を頭に入れた上で、バドーさんの想いを感じとってください。

以下、原文を引用し、ほねゆきが日本語に訳します。

The Monteggia lesion si a typical example of a double bone injury, characterized by a radial dislocation and a fracture of the ulna.
モンテギア損傷は、橈骨頭脱臼と尺骨骨折の同時発生を特徴とするものとされている。

This definition is different from Monteggia’s, published in 1814, when he made known the first two observations of “a traumatic lesion distinguished by a fracture of the proximal third of the ulna and an anterior dislocation of the proximal epiphysis of the radius.”
1814年に発表されたMonteggiaが発表した「尺骨近位3分の1部の骨折と橈骨頭の前方脱臼が併発する症例」とは異なり、現代のモンテギア損傷は骨折部位や脱臼方向はうやむやに議論されている。

Nevertheless, many authors have insisted on keeping the original definition given by Monteggia: an ulnar fracture located between the proximal third and the base of the olecranon.
残念ながら、多くのモンテギア損傷の研究者はMonteggiaの当初の「尺骨近位3分の1部の骨折と橈骨頭の前方脱臼が併発するという定義に固執している。

The most frequent site of fracture is at the junction of the proximal and the middle thirds of the ulna (statistics show 60 to 70%); this localization must not be considered as being exclusive.
実際は、尺骨において最も骨折頻度の高い部位は、肘頭〜骨幹中央で、統計では60~70%を占める。

A traumatic lesion can present all the characteristics described by Monteggia with the ulnar fracture located proximal or distal to this level.
外傷性の損傷の場合、尺骨骨折の位置が尺骨近位3分の1部でなくて、それより近位または遠位であっても、Monteggiaが述べたような特徴を示すことが分かりました。

Therefore, the location of the fracture at the level of the ulnar diaphysis does not define the “Monteggia lesion.”
したがって私は、尺骨骨折の発生する位置によってモンテギア損傷を定義するべきではないと考えます。

Since the dislocation of the radial head can be anterior, lateral or posterior, any dislocation found with an ulnar fracture constitutes the anatomic-clinical picture of the lesion discussed by Monteggia.
また、橈骨頭の脱臼は前方、側方、後方のいずれにも起こりうるので、尺骨骨折に伴う橈骨頭脱臼は、その骨折や脱臼の様式(転位の方向)に関係なく、すべてをMonteggiaが論じたものとして考えなければならない。

Keeping these considerations in mind, we shall be able to classify under the term “Monteggia lesion” a group of traumatic lesions having in common a dislocation of the radio-humero-ulnar joint, associated with a fracture of the ulna at various levels or with lesions at the wrist.
このように考えると、尺骨の様々な高位(部位)の骨折を、肘関節の損傷を共通点として、 “Monteggia lesion “という用語で分類することができます。

「The Monteggia Lesion」1967年 より引用抜粋

さて、みなさんはここまで読んでみて理解できましたか?

バドーさんは、世間でモンテギア骨折が「尺骨近位3分の1部の骨折」と「橈骨頭の前方脱臼」に当てはまるものだけで議論されていることに疑問を感じ、尺骨骨折の部位や転位方向を定めずにもっと広い範囲で新しく「モンテギア骨折」を考えないといけないと警鐘を鳴らしたのです。

英語のニュアンスを完全に日本語に置き換えるのは難しいですが、今まで呼ばれていた名称が「モンテギア脱臼骨折」だとすれば、バドーさんは改めて定義しなおした上で、「モンテギア損傷」として呼ぶよ、と言っています。

※本文中では「Monteggia lesion」として強調されています。

そこから生まれたのが、タイプ1〜4に分かれる分類なんですね〜。

では、タイプについて書かれている部分を読んでいきましょう。

Type 1
Anterior dislocation of the radial head. Fracture of the ulnar diaphysis at any level with anterior angulation. 60% of cases.
1型
橈骨頭の前方脱臼。尺骨骨幹部で骨折し、前方に角度がついている(屈側凸に転位している)もの。全体の60%。

Type 2
Posterior or posterolateral dislocation of the radial head. Fracture of the ulnar diaphysis with posterior angulation. 15% of cases.
2型
橈骨頭の後方または後外側脱臼。尺骨骨幹部で骨折し、後方に角度がついている(背側凸に転位している)もの。全体の15%。

Type 3
Lateral or anterolateral dislocation of the radial head. Fracture of the ulnar metaphysis. 20% of cases.
3型
橈骨頭の外側または前外側脱臼。尺骨骨幹端の骨折。全体の20%。

Type 4
Anterior dislocation of the radial head. Fracture of the proximal third of the radius. Fracture of the ulna at the same level.
4型
橈骨頭の前方脱臼。橈骨近位3分の1部の骨折と、橈骨と同じ高さの尺骨の骨折。

「The Monteggia Lesion」1967年 より引用抜粋

さて、文字ではこのような感じで書いてありました。

柔整の教科書で言う伸展型が1型で、屈曲型が2型、3型は外側型で、4型は橈骨頭の脱臼と骨折が併発するという珍しいものです。

では、実際にどのような症例が例として挙げられていたのでしょうか。

実際に文献に載っている症例

では、実際にどのような症例が例として挙げられていたのでしょうか。

タイプ1の症例

まずはタイプ1の症例です。

上記画像ではfig.8の整復前後のレントゲンが載っています。石膏ギプスが巻かれていますね。

レントゲンの撮影がイマイチですが、整復はおおむね良好でしょう。

ほねゆきはこれを現代でみたら「肘もっと曲げなさいよ」と思ってしまいますが、3歳のこの骨折でしっかり3年も経過を見たと書いてあり、保存療法を行う人種の大大大先輩としてバドー先生を尊敬します。

次の画像を見ていきましょう。

タイプ2のレントゲン

レントゲンが今と違って色が反転しており見づらいですが、上記画像の症例がタイプ2として紹介されていました。

画像の左と右で2症例が記載してあります。

左の症例は橈骨が外側へ大きく脱臼しています…これが2型なのか…は置いておいて、右の症例は屈曲型つまり2型と言っていいと思います。

どちらも骨癒合後のレントゲンが載っていますが、うまく癒合していますね!

では、次は3型です。

タイプ3の症例

バドーさんは3型において、尺骨は骨幹端で骨折したもので、橈骨頭は前外側への脱臼だと定義しています。

右のfig.26を見ると、骨折と脱臼の様子がはっきりとわかると思います。

タイプ4の症例

さて、4型は橈骨が脱臼して、さらに尺骨と同高位で骨折したものをいうと定義されています。

画像をよーく見ると、尺骨もしっかりと折れていることが分かります。

まとめ

さて、ここまできちんと読んでくださった方は、バドーさんが何を思ってこの分類を作ったのか、なんとなく想像ができますでしょうか。

本当のところはバドーさんに聞かないと分かりませんが、ほねゆきは想像しました。

きっとこのバドー分類は、バドーさんが、モンテギア骨折を尺骨中近位3分の1部の骨折と橈骨頭脱臼という限定的な損傷のみとして捉えて受傷や発生機序のことをあまり深く考えていない人たちに向けて、加わった外力により転位方向や尺骨の骨折が起こる高さが変わるという視点を持って、それにより整復方法(治療方法)や予測される予後が違うということを促したくて、作ったのだと思います。

お後がよろしいようで。

ちなみに、ほねゆきはこのバドー分類の小児ver.を独自で作っているのですが、それもまた機会があればどこかで記事にできればと思います。

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