あのコッドマン博士の原著論文をみた

コッドマン博士の画像

注意!

この記事はとてもマニアックな内容となっております。(1万字以上あります。)普段から治療のことを四六時中考えているような、ちょっと変わった医療者にしかウケない記事だと思いますので、「なんだこれ、長いなぁ」と思ってしまうかも、という人は絶対に読まないでください。そういった方のクレームは一切受け付けておりません。(笑)

逆に、治療マニアには大変喜んでいただける内容になってますので、夜の寝る前なんかにゆっくり読んでみることをお勧めします。昼の短い休憩中に読み始めるのは、速読のプロ以外はお勧めしません。

柔整師のみならず、運動器に関わる医療職の方は皆さん知っているであろう「コッドマン体操」。

コッドマン体操とは Ernest Amory Codman, M.D.(アーネスト・エイモリー・コッドマン医学博士)が1934年に発表した肩関節の体操法です。コッドマン先生は外科医ですが、当時は外科も整形外科も科の区別が現代ほどはっきりしていませんので、もちろん肩関節の手術などもしていたのです。

特に肩関節の骨腫瘍などの研究に力を注いでいたとされており、その中で腱板断裂などの肩関節周囲の傷病についても文献にまとめられています。

現代では、コッドマン先生と聞いたら「あのコッドマン体操の?!」となりますが、原著論文を見るに、ほねゆきが思うにおそらくコッドマン先生は、それほど力を入れてコッドマン体操を開発したわけではないと思われます。

コッドマン博士

肩関節のまとめ的なやつ発表するから、エクササイズもついでに書いとくか〜

というようなノリで書いたと思います。なぜかって?

肩関節について書いている冊子600ページのうちコッドマン体操について書いてあるの2ページだけなんです。しかも、コッドマン先生が自分で自分の名前を付けて「Codman exercise」なんて名付けてません。

どこかの先生

コッドマン博士が発表した、あのエクササイズのことなんて言うことにする?んー、「コッドマン体操」でいっか〜。

おそらく、コッドマン先生の発表後に誰かが、「コッドマン体操」と名付けたのでしょう。まぁ、そんなもんですよね医療用語は。

ということで、今回はほねゆきが教員時代に極秘に(?)入手した『 THE SHULDER 』1934年 E. A. Codman, M.D.著のコッドマン体操について書いてある文章を引用し、ご紹介したいと思います。皆さんが思うような発表の仕方ではないと思いますので、是非最後まで読んでくださいね!


  • 現代におけるコッドマン体操
  • THE SHOULDER
  • Stooping Exercise
  • Swinging Exercise
  • おわりに

では、レッツゴー。

今回の記事において和訳の記載がありますが、直訳すると意味が分かりづらいのでほねゆきが分かりやすいように加減筆しています。意味が変わらない程度にとどめていますが、気になる方は英文(原文のまま記載)を読解してください。
また、記載内容が現代において正しい治療法や考えとは限りませんので、ご理解ください。

現代におけるコッドマン体操

コッドマン体操は英語圏では「Codman pendulum exercise」とも言われています。直訳すると「コッドマンの振り子運動」です。

つまり現代では、”前傾姿勢で片手を台について反対上肢を重力方向に下垂して脱力した状態で行う振り子運動” を指すことが多いと思います。あえて多いと言ったのは、地域差が割と多くあるからです。

上肢を前後方向に振る、いわゆる振り子運動をコッドマン体操と言う人もいますし、円を描くように振ることをコッドマン運動という人もいます。さらには他動的な運動をコッドマン体操という人もいるようですし、錘(おもり)を付けなければコッドマン体操と言わないという人もいるようです。

日本では ”コッドマン体操変法” などと言って独自にアレンジした運動をする人もいますし、いやはや、鉄アイロンを持たないとオリジナルのコッドマン体操ではないという先生もいました。

結論から言うと、現代においては「なにをもってオリジナルのコッドマン体操なの?」という状態です。そもそもコッドマン先生が「この体操ヲコッドマン体操とイイマス〜」と言っていない以上は、本当の意味でのコッドマン体操は存在しないのです。

ほねゆきは、「この運動をコッドマン体操と言います」という論文を目にしたことがありません。もし、そのような書物があれば、その誰かが定義した内容をオリジナルとするべきですが、どこかにあるのでしょうか。少なくともコッドマン先生は定義していないと思われます。

毎度言っていますが、言葉はめんどくさいですね。(笑)前置きはさておき、コッドマン先生の書いた文章をみていきましょう。

THE SHOULDER

まずは表紙です。『THE SHOULDER』というタイトルの下にはこのような副題があります。

「rupture of the supraspnatus tendon and other lesions in or about the subacromlal bursa」

訳)「棘上筋腱の断裂および肩峰下滑液包内またはその周囲の病変」

『 THE SHOULDER 』 E. A. CODMAN, M.D.

タイトルにあるように肩関節について手術記録や治癒過程、治療方法などが全603ページに渡って記載されています。ほねゆきがざっと読んだ感じでは、p201〜p203にコッドマン体操らしきエクササイズについての記述がありました。

Stooping Exercise

まずは、このような記載がありました。

「There is one form of treatment not uncommonly given, which I believe is to be heartily condemned, i.c., fixation by strapping or bandage. In my opinion many of these cases are made worse by this treatment, which encourages adhesion of the roof of the bursa to the inflamed tendon.」

訳)(腱板損傷において)提肘や包帯固定はよく行われる治療ですが、私は正しくないと思います。私の経験によると、提肘や包帯固定は肩峰下で滑液包と腱の癒着を促進し、結果的に症状を増悪させます。

stooping exercise について記載のあるページ(イラスト付き)

続いて、このような運動療法が有効であると記載されています。

Stooping Exercises

訳)前傾姿勢体操

The principle of the stooping exercise is that they permit the patient to abduct the arm by gravity and there-fore no fulcrum is needed. If a patient elevates the arm in the standing position, the humerus obviously must obtain a fulcrum on either the gleaned or on the accordion or on both, while in the stooping position no fulcrum is necessary. In the standing position the little supraspinatus must pull the tuberosity firmly to keep the latter from touching the scromion. In the stooping posture it may remain relaxed.

訳)前傾姿勢体操では重力によって肩が外転(脇を開けるという広義での外転, 屈曲を含む)するため、上腕骨が肩甲骨関節窩に支点を取らなくてよく、そのことに利点があります。立位で肩関節を自動外転する場合、上腕骨は関節窩か肩峰のどちらか、または両方に支点を取らざるを得ませんが、前傾姿勢体操ではその支点が必要ありません。立位での肩関節自動外転は、骨頭が肩峰に接触しないように棘上筋が収縮して大結節を引き込まなければいけませんが、この体操では、棘上筋は弛緩したままでも肩峰に骨頭がぶつかることはありません。

Since the sore point in most lame shoulders is on the tuberosity at just the region where it rends to obtain a fulcrum on the acromion, it is highly important that the patient with a damaged supraspinatus should not delay his recovery by frequently raising his arms. The exquisite tenderness which arises in recovery by frequently raising his arms. The exquisite tenderness which arises in these cases is nature’s defensive effort to warn the patient not to use the arm in this way.

訳)肩関節外転時に骨頭が肩峰にぶつかりやすい位置で腱板断裂(損傷含む)は好発するため、腱板断裂の患者さんにおいて頻繁に外転運動させると組織修復が遅れてしまう。頻繁に外転していると患部の圧痛は増悪する。この疼痛増悪は、患者に腕を使わせたくないという自己防衛反応である。

When the patient with the sore shoulder is in the stooping posture he can much more readily brush his hair, button the back of his collar or perform any other motions. He can, for instance, learn to put on his shirt and coat over the lame arm when stooping, and then after he has risen to the erect position put on the other sleeve.

訳)外転運動を制限されている患者さんが前傾姿勢を取ると、洗髪動作や結帯動作がとても楽に行えます。例えばコートの袖を通す時、前傾姿勢をとってから患側の袖を通し、立位になって健側の袖を通すなどすると楽に着ることができます。

When in the stooping position, either lateral or anteroposterior motions can be done with a pendulum-like movement without great muscular effort. in this position the humerus not only tends to avoid a fulcrum, but actually the weight of the arm helps to stretch the contracted tissue of the joint.

訳)この体操は腱板への負担をなくすだけでなく、上肢の自重によって肩関節周囲の筋などの軟部組織を伸長させる目的もある。

Swinging Exercise

腱板損傷などの肩関節周囲炎について、こうも述べています。

All the periarticular structures become fixed, the muscles atrophy and become ischemic and contracted. Many months may pass before the joint moves again, although ultimately it always does become mobile.

訳)(腱板損傷などの肩関節周囲炎が起こると、)肩関節周囲の筋や関節包は虚血してスパズムを起こし、可動域制限をつくります。可動域の制限が解除されるまでには何ヶ月もかかることがありますが、最終的には必ず動くようになります。

The neuritic symptoms are particularly painless and the patients are only inconvenienced by the restriction. Spontaneous scapula-humaral spasm is a sufficient guard for the inflamed joint and we should neither add to it with straps and bandages nor fight it with forced motions.

訳)神経原性疼痛はあまりなく、提肘や包帯固定をしてしまうと患者さんの生活が不便になるだけである。組織修復のための関節不動は、スパズムによる肩甲上腕関節の可動域制限で十分であり、無理に外固定を施す必要はない

swinging exercise は stooping exercise の派生系として紹介されており、イラストはありません。

そしてようやく、現代のコッドマン体操に近しい記述が出てきます。

Active “swinging exercises, “with the patient in a stooping position, should be used in most cases. When the patient stoops the strain is taken off the supraspinatus and it is far easier to move the joint.

訳)(腱板損傷などの肩関節周囲炎において)多くの場合、前傾姿勢での「スイングエクササイズ」を行う必要があります。前傾姿勢では、棘上筋の負担が軽減され関節運動がとても容易になります。

I regard it as very unwise, Until the convalescence is well advanced, to allow the patient to exercise the arm in a standing position because this forces the supraspinatus to cooperate with the deltoid in supporting the weight of the arm. The pain caused by tis at once starts scapula-humeral spasm and the joint ceases to move.

訳)回復が十分にすすむまでは、立位でのスイングエクササイズは非常に危険です。棘上筋や三角筋が上肢の自重を受けて、さらなる筋スパズムを起こして可動域制限が増強します。

It is better to let the patient stoop with the arm hanging relaxed. If the patient straightens up again as soon spasm begins, he will in fact adduct the arm. In other words, when one stoops with the arm relaxed one abducts (elevates) the arm on the body; when one straightens up with the arm relaxed, one brings the arm into the anatomic position.

訳)上肢は脱力させた方がよいです。上肢を重力方向に下垂せずに筋収縮が入り体に近いところで上肢が止まっている状態では、立位にしたときに外転角度が少なくなってしまいます。言い換えると、前傾姿勢で上肢脱力し重力方向へ下垂すると、脱力しないときよりも外転角度が付き、その状態は解剖学的に肩関節への負担がとても少ない。

The principle of “stooping exercise” is useful in many ways. Gentle exercises of this kind prevent adhesions following the acute or subacute attack. Vigorous exercises loosen up adhesions already formed. Gentle postoperative exercise or permit active exercise which causes even moderate pain.

訳)この「前傾姿勢での一連の運動療法」は、いろいろな意味で有用である。こういった肩関節に負担の少ない運動療法は、慢性期の癒着(拘縮)を防ぐことができます。運動を大きく行うことで、癒着改善に大きく貢献します。手術後の運動療法や中等度の拘縮改善には積極的にこの運動を推奨する。

以降は関連した記述が続きますが、上記がコッドマン体操誕生のきっかけとなったコッドマン先生の文章だと思われます。

おわりに

和訳が読みづらいのはすみません。。

ほねゆきが教員時代にコッドマン体操の由来を調べていた時に、この論文(総集編冊子)に出会いました。

もしかすると、前述したようにこの文章が発表された後にどこかの先生が「コッドマン体操」と名付けて論文内でその単語を使用したのかもしれませんが、まだほねゆきはそのような論文に出会っていません。

てっきり、学生時代にコッドマン体操を勉強した時には、コッドマンさんが「この運動は肩関節に効くぞ!」と意気込んで「皆さん!これがコッドマン体操です!」と発表したと思っていました。

しかし、実際は違ったようです。コッドマンさんが自分で名付けたわけではなさそうですね。さらに言うと、円形に振るとか横方向に振るとかいう運動については全く言及していませんでした。

コッドマン先生、いままで穿(うが)った見方をしてしまい、すいませんでした。(笑)

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