コメントを読んでいると、みなさんも「もし自分が現場で同様の症例に遭遇したら」という視点でよく考えていらっしゃるんだなと本当に感動しています。
①エピソード編
②エピソード解説編
③発生理論編
④治療編(この記事です⬅︎)
③発生理論編で「さらに、もうひとつ尺骨を近位に押し込む力が存在します。どのような力があるか、是非考えてみてください。」と書きましたが、答えは「筋収縮」です。筋の収縮力で弾発性固定されますね。
さて、K先生の話として今回の記事も含めて4回に分けてお話ししてきました。「ひとつの話をこんなに長引かせるなんて!」というお声は今の所届いておらず、みなさん本当に “リアルな外傷の話” が好きな変態なんだなとつくづく感じております。
変態の皆様、お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。今回は海外の手術治療例をご紹介したいと思います。「そんなの知ってるよ!」と思う方は、この記事は読み飛ばして頂いていいと思いますが、それをもとに柔整的保存療法にどう活かせるかを再度考えるきっかけにしていただければなと思います。その後にほねゆきの考えも書きますので、最後まで読んでみてください。
下記は今回の目次です。
- 保存療法と手術療法どっち
- 靭帯再建術の一例(YouTube)
- ほねゆきが保存療法で行う場合
- まとめ
手術か保存どっち
肘関節脱臼の治療例や治療成績は多く論文で発表されているようです。長崎大学熊谷らは、12〜84歳の肘関節脱臼計18例においてその予後を以下のように報告しています。
また、大同病院の篠原らは、中程度以上の不安定性を認めた39例に対して手術療法を行い、下記のように報告しています。
1980年の研究で手術療法の技術が現在と違いますが、josefssonらは単純外傷性肘関節脱臼30例に対して保存療法と手術療法のランダム化試験を行い、以下のように発表しています。
このような発表だけをみると、みなさんは「肘関節脱臼は手術療法を選択した方が予後がいい」というふうに思うでしょうか。私はすぐにそう結論づけることは難しいと考えます。これらの発表がすべて整形外科の先生のものだからです。なので、ここにでてくる保存療法は柔整的エッセンスがない保存療法です。
これをみてすぐに、柔整師が「肘関節脱臼は手術じゃないと治らないよ」と言ってしまうのはもったいないと感じます。
これまで柔整師の先生が保存療法で完治まで問題なく施術した症例は多くあります。ほねゆきの経験でもそうですが、外側側副靭帯が完全に断裂している症例であってもスポーツ復帰までもっていける症例も多いです。
しかし、若年者の外側側副靭帯まで断裂している肘関節脱臼においては、昨今は手術療法のほうが、スポーツ復帰という点を考えると患者満足度が高いのかもしれません。それは、固定期間と見掛け上のROMの戻りの速さに起因すると考えています。
1)Kenji Kumagai and others: Follow up study of elbow joint dislocation, 35:(3)1987 2)Takaaki Shinohara and others: Primary ligament repair for traumatic dislocation of the elbow joint, 26)2 2019 3)Jsefsson PO and others: Surgical versus non-surgical treatment of ligamentous injuries following dislocation of the elbow joint, 69;605-8 1987
靭帯再建術の一例
新鮮な肘関節脱臼の多くは、観血的に行わなくても徒手整復できます。整復困難な症例は稀ですから、骨片を伴わない単純な肘関節脱臼に対する手術療法に対して行われる手術は、靭帯再建術が多いのではないでしょうか。
ほねゆきは柔道整復師です。なので、手術療法を行うことは出来ませんし、現代の手術療法に詳しいわけでもありません。なので、ここではYouTubeにアップロードされているLCL再建術の動画をご紹介します。ほねゆきの本場仕込み(中学時代はシャフツベリーで過ごし、相当な英語かぶれです)のリスニングが間違っていたらご指摘ください(笑)
David Tuckman, M.D.による左肘外側側副靭帯の縫合とInternal Brace(人工靭帯)による補強の術中動画です。靭帯を縫合した後にsuture anchorという製品を用いて修復しています。
17歳女性で馬から落ちて受傷したようです。整復後にシーネ固定するも動揺性著明で、手術になったようです。動画内の患者さんは開放性肘関節脱臼で、単純性ではありませんが参考になると思います。



患者を仰臥位にして、Kocherアプローチという手法で術野を展開するそうです。

皮膚を切開し、皮下組織も開いていき、ECU(尺側手根伸筋)の腱が見えてきたようです。

LCLが赤の線のように走行しており、赤の丸が外側上顆のようです。LCL複合体の特定が最も重要だとDavid Tuckman先生は言っています。LCLのみでなく、伸筋集合腱も断裂していたようです。LCLを縫合しているようです。

橈骨にドリリングして、人工靭帯の付いたアンカーを打ち込むようです。


上腕骨側にも同様に打ち込んでいくようです。


モーションを確認し、動作時の異常がないか確認するようです。

David Tuckman先生が言うには、術後に関節の安定性が保てた場合、多くは外固定は必要としないそうです。2日以内に創部のドレッシング材も除去し、10日後からは運動療法、6週間後にはより高強度な運動を開始し、通常3ヶ月でフルに活動復帰できるそうです。

ほねゆきが保存療法で行う場合
動画のような開放性脱臼は法的に施術不可能ですが、単純性脱臼であれば柔道整復師も医師の同意があれば施術可能です。
ほねゆきの施術を行うか医科へ紹介するかの判断ポイントは以下の通りです。
①患者さんが何を基準に治療を考えているか。
患者さんが外観上の固定がすぐ外れること(入浴がすぐにできるかなど)を治療の基準に考えている場合は、多くの場合、ほねゆきの保存療法は適応ではありません。これはざっくりとしたものですが、ほねゆきが管理する場合は、上腕近位〜手関節までのギプスを2〜3週間、同範囲のギプスシャーレ固定を1〜2週間、その後サポーターあるいは包帯固定となり、入浴までに最低でも4〜5週はかかるからです。
②患者さんの活動量(スポーツや仕事)
患者さんが腕をよく使う、もしくは復帰後も肘に高負荷がかかるかどうかは重要なポイントだと思います。仮に、保存療法で靭帯が受傷前とほぼ変わらない強度になったとしても、それで運動復帰後に再受傷したり痛みや不安定感を感じるのであれば、「患者さんは手術をしておけばよかったのかなぁ」と不安に感じるでしょう。逆に、仕事はデスクワークで運動もあまりしないという人はほねゆきの保存療法でも満足度は高いです。
③整復困難な橈骨頭骨折を合併している場合
整形外科病院勤務時代に、肘関節脱臼で橈骨頭骨折を合併している症例において、橈骨頭を完璧な(機能的予後のよい)整復位にすることが難しい症例にほねゆきはあたったことがあります。肘関節脱臼を整復後に、安全に橈骨頭を整復する場合は直圧整復法しか、今のところほねゆきには選択がありません。直圧しても良好な整復位が得られなければ、機能的予後に不安が残るため、上記①、②をクリアしていても転院をすすめます。
さて、いかがでしたでしょうか。みなさんも施術基準のようなものがあれば是非コメント欄で教えていただきたいです。
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