以前のブログでも紹介しましたが、ほねゆきの知り合いのK先生(AT、柔道整復師)が貴重な体験談を話してくださったので記事にしたいと思います。少々、話が長くなりますので3つの記事に分けて書いていきたいと思います。
①エピソード編(この記事です⬅︎)
②エピソード解説編
③発生理論編
④治療編
つい先日、当ブログでも『踵骨骨折の施術での失敗』としてほねゆきの施術失敗経験をお話ししました。柔道整復術(整復固定、後療)に限らず、ひとの経験から学ぶことはとても多いと思います。
ましてや失敗例は、ひとに言うことが憚(はばか)られます。ほねゆきはK先生の判断や行動は素晴らしいものだったと思いますが、この話題を提供していただいたK先生に感謝しています。
この記事の目次は以下となります。
- エピソード概要(要約)
- 詳しいエピソード内容
– 受傷とその直後
– 救護室にて
– 整形外科へ受診 - 実践トレーニング問題コーナー!
エピソード概要
K先生が高校サッカーチームにトレーナーとして帯同した先で、チームの男児が肘関節後方脱臼を受傷してしまった。搬送先の病院が決まるまで時間がかかっていたため応急的な整復を試みたが、様々な要因で整復ができず、結果そのまま固定をして整形外科受診となった。受診先で脱臼は整復されたが、手術の可能性を説明され病院への転院を指示された。
詳しいエピソード内容
受傷とその直後
地元の高校のサッカー部の試合にトレーナーとして出向いていたK先生は、帯同チームの主力メンバーであるA君の怪我に遭遇します。K先生は受傷時はピッチの外のやや離れた場所にいましたが、受傷の瞬間は目視で確認したそうです。
A君
16歳、男児、体重57kg
病歴・既往:特になし
サッカーの試合中にジャンプしてヘディングしようとした時に相手選手と接触し、バランスを崩して転倒。右手掌を地面について右肘を過伸展し受傷。
受傷と同時にA君はピッチにうずくまり、起き上がることができませんでした。レフリーからすぐに救護の要請があり、一度試合はタイム状態になりました。
患側上肢は下垂して、肘関節は外観上軽度屈曲位、前腕は中間位よりやや回外位をとっています。健側の手で、患側の手関節に近い前腕遠位部を持って支えてピッチ外に出ました。臨床実技の授業でも習ったと思いますが、教科書通りの受傷と来院肢位(今回は移動肢位でしょうか)ですね。
A君がピッチ内にうずくまった受傷直後、K先生は、A君の痛みが遠目からでも尋常ではないことが分かりました。A君は自力で立つことができず、両脇から支えてもらうようにしてでないと立てなかったからです。

A君の肘頭が、後方に突出しているのがお分かりでしょうか。肘頭の上部にある上腕三頭筋腱は、索状(ある程度太さがあり長い状態)に緊張して確認できます。画像からは、上腕三頭筋腱が後方に引っ張られているため、その遠位部で上腕骨との間にくぼみが確認できますね。当然、肘関節は自動運動ができず、この肢位に弾発性固定されています。
救護室にて
救護室にA君と一緒に移動したK先生は肘関節(前腕両骨)後方脱臼だと判断しました。学校の取り決めで普段から緊急時にかかる病院(クリニック、医院含む)がいくつか定められており、K先生は取り決め通りに行き先の病院を探しました。
当日は日曜日だったこともあり、この傷病に対応できる医療機関を見つけるのには多少、時間を要しました。医療機関への受診を手配して待っている間、K先生は、神経損傷や血管損傷の有無を確認しましたが、いずれにおいても異常は認められませんでした。
A君が救護室に連れて来られた時は、先に示したような患部の外観であったものが、受傷から10分あまり経過したころにはA君の肘がみるみる腫脹を呈してきました。救護室に連れて来られた時には上腕三頭筋腱の索状となった緊張が外観から確認できたのに、その頃には腫脹で確認できなくなっていました。
やむなくK先生は、その現場でA君の整復を試みようと決めました。しかし、使える場所は高校の救護室という名のただの教室。ベッドはおろか、A君に臥位を取らせることもできません。
高校のキャスター付きの椅子にA君を座らせたまま、同席していたA君の同級生に上腕部の把持を指示しました。
前腕骨近位端部を上腕骨長軸末梢方向に牽引し始めるとともに、前腕骨遠位端部を前腕長軸末梢方向に牽引しようとしても、その牽引につられるようにしてA君の身体がついてきます。
A君の同級生に行ってもらった対向牽引が不十分だったのでしょうか。A君が座った椅子がキャスター付きで椅子ごと動いたのかもしれません。
結果、K先生は整復を断念し、患部にアイスバッグを当てるとともに、クランメルシーネと三角巾を用いて患部に動揺を与えないように固定しました。
整形外科へ受診
その後、行き先が地域の整形外科クリニックに決まり、A君とは母親に連れられて外来受診しました。レントゲンを撮った結果、A君の前腕両骨後方脱臼には肘の前側に三角形の小さな骨折を伴っていたことが整復後のレントゲンで分かったそうです。
行き先の病院では局所麻酔を行った上で徒手整復が行われました。A君は後日、激痛だったといいますが徒手整復は成功したようです。さらに、脱臼骨折であることを理由に肘関節の不安定性が残るかも知れない旨を説明されました。また、その整形外科クリニックからは、(年齢が)若いし手術の可能性も考えた方がいいとのことで、大きな病院での診察を勧められたそうです。
その後にA君がどうなったかについては今後の記事で触れたいと思いますが、詳細はこのようなエピソードでした。
今回のK先生の対応は素晴らしいものでした。改善点はあると思われますが、K先生の行動についての批判や抽象はおやめください。自分がいざ現場にいたらどうするか、そういった視点で見ていただければと思います。
実践トレーニングコーナー!
さて、上記のエピソードを聞いて何を思ったでしょうか。このブログは、聞くところによると、柔整師の先生方や柔整学生の皆さんだけでなく、いろいろな職種の方が訪問してくださっているようです。(信憑性があるかは分かりませんが、ワードプレスのプラグインによると、毎日アメリカとモンゴルから見てくれている方もいます笑)
トレーニングコーナー!と書いていますが、皆さんを試すとかではなく、エピソードを通して皆さんの思考をぜひブログに参加させてもらいたいのです。以下の問いに対して皆さんはどのような考えをお持ちでしょうか?
1.肘関節後方脱臼において受傷後1時間以内において、上腕三頭筋腱の索状変化が腫脹でみられなくなった時には、骨折が併発している可能性が高いと判断できるかどうか。
2.レントゲンなどの画像検査をすれば脱臼か骨折かがわかる状況で、現場で柔整師が発生機序(どのように受傷したか)や受傷後の肢位を考察する必要があるのかどうか。
3.脱臼だと判断した上で、環境が整わないような現場であった時に整復操作を行うべきかどうか。
4.ある程度の大きさの尺骨鉤状突起骨折を伴う肘関節後方脱臼は保存療法可能かどうか。
これらにはっきりした答えはありません。これらに対するほねゆきの考えについては、また次のブログ(②エピソード解説編)でご紹介したいと思います。
是非、コメント欄(匿名で投稿できます。)やツイッターのリプライ、DMでもなんでも大丈夫ですので、それぞれのお考えを教えてください。人のコメントに対する批判は望んでおりません。
ほねゆきさん
貴重な症例報告ありがとうございます。
①後方脱臼では主張の腫脹に関わらず骨折があると思い処置しますが、後方が腫れて3頭筋腱が見えなくなるということを考えると後方の組織が壊れているのでしょうか?(三角の骨片は鉤状突起骨折ですかね?)
②発生機序や受傷肢位からどこに外力が加わったか予想できるので可能であれば聴取すべきと思います。
③脱臼は脱臼していることで痛みが出ていると思うので患者のことを考えるといち早く脱臼を戻すべきかと思います。ただ応急処置で脱臼が整復されてしまうと、医療機関ではもはや脱臼だったかがわからないので、経過を見ないのであれば簡単な固定だけして送ってもいいのかなと思います。
④鉤状突起の骨折は鋭角屈曲位で整復されていれば、保存でいけるのでは…と思います。
以上です。
いつも楽しみにしてます。よろしくお願いします。
KWSKさん
ご丁寧にコメントありがとうございます。
後方組織が何を指しているか難しいですが、
単純な肘関節後方脱臼では後方関節包は損傷しないものと思います。
これは、また後日配信できればと思います。
経過を見れないのであれば手を出さないというのはとても重要な考え方ですが、
脱臼の場合は技術があれば整復すべきとほねゆきは考えます。
②のほねゆきの考えをご覧ください。
鉤状突起骨折の管理方法については、いろいろと条件があると思います。
ハウトゥーだけをブログで書くことは危ないと思うので慎重になってますが、
これもまた、後日なにかで配信できればと思います。
はじめまして。いつもTwitterやブログ見て勉強させていただいてます。
1、腫脹の程度から骨折も推測できますが、私でしたら今回の症例ですと16歳という年齢からまずは内側上顆骨折が合併している可能性を留意しながら診察を進めていくかなと思います。
3、整復については環境が整わない、骨折の合併が考えられる場合は2回ほど整復してハマらない場合は骨片なども整復障害を考え医院での行なってもらうことを考えると思います。
2項目ですが答えさせていただきました。
これからもブログ楽しみにしています。
お身体に気をつけて頑張ってください。
鎖骨さん、貴重なコメントありがとうございます。
また、質問にご参加いただき嬉しく思います。
2つとも、とても的を得た回答だと思います。
内側上顆裂離骨折は、骨片が小さい場合も多く気をつけなければなりませんね。
肘関節脱臼における整復障害は、整復環境因子と術者の技術不足が多い気がしています。
整復が困難であった場合にどのように次へパスするか、日頃から考えておくのも大事ですよね!
ほねゆきさん。
貴重な記事を書いていただきありがとうございます。
このような記事から学びをいただくことで、少しでも日々の臨床に生かせればと思います。
私なりにコメントさせていただきます。
院内での対応と、現場先での対応では勝手や環境が違うので難しい対応になりますね。
①私は1時間以内で、腫張がでた場合であれば可能性は考えます。
②もし私が現場にいたとして、病院に付き添う場合、医師の先生に負傷原因をしっかりと伝えるべきと思うので、必要と思います。
③環境が整わなくてもできるのが理想ですが、受傷からどれくらいの時間が経過しているかも1つの判断基準にしたいです。
④恥ずかしながら、私は経験できていないので、私では可能とは言えないです。
稚拙なコメントですが、お手隙の際に拝読宜しくお願い致します。
以前、まだほねゆきさんが、ジャックナイフだった時にSNSで突然絡まれて恐怖しましたが、心変わりされたきっかけが気になっております。
コメントありがとうございます!非常に共感する部分が多いです。ジャックナイフ時代は存在しませんので、発言にはご注意を!!笑